第191話 白の石


翌朝、宿屋の一階にある食堂で、エリアスと朝食を摂った。

エリアスは少し二日酔い気味だったので、軽く回復魔法をかけておいた。

そしていつもの様に、エリアスは私の隣に座ってきた。


「これでアシュレイも晴れてCランク冒険者だな!」


「ランクが上がっても、今までと何も変わらないよ。依頼を受ける訳でもないし。」


「なんだ、アシュレイ、知らなかったのか?Cランクになったら、個人的に依頼を頼まれる事も増えるが、国からの依頼を指名される事もあるんだぜ?」


「そうなのか?」


「悪い、言っときゃよかったな……まぁ、Cランクじゃあ滅多に無いことだから、そんなに気にしなくても言いと思うけどな。」


「じゃあ、Aランクだと結構依頼を指名されたりするんじゃないのか?」


「まぁ、そうだな。俺がここにいた時は、ほぼそんな仕事だったからな。」


「じゃあ、今は……」


「旅に出る時に、アルベルトに止められたのがそれだ。俺の仕事が殆ど国がらみだったから、ギルドは国に大きな顔が出来てたんだよ。ったく、俺に頼り過ぎだっつぅんだよ……」


「エリアスなら、難なく依頼をこなせていたんだろうな。」


「ったりめぇだ!俺が依頼を失敗したのは、アシュレイに出会った時だけだぜ?」


「それ……は……悪かった……」


「その事については……俺も悪かったと思ってる。アシュレイの肩に傷を残したから……」


「あの時は仕方がなかった。お互いもう気にしないでいよう?……そうか……でも、ギルドにしたら、私は疫病神だな……」


「関係ねぇよ。ここにはBランクの奴らもいっぱいいる。他の街より冒険者には恵まれてると思うぜ?」


「この国には、Sランクの冒険者はいないんだろうか?」


「Sランクはいねぇな。国は俺に、Sランクに上げろとよく言われたけどな。アルベルトは上げるなって言ってたけど。」


「それは……」


「そうだ、Sランクだと国の冒険者になっちまう。まぁ、金は破格に貰えるらしいけど、それには興味なかったな。ギルド経由にならないとギルドに儲けが出ないから、アルベルトはランクを上げるのに反対してたけど。俺は好きにしてたから、国からの依頼もたまに断ってたしな。」


「そうなんだな……」


「もしアシュレイに指名で依頼が来ても、受けたくなかったら断りゃ良い。まぁ、殆どの冒険者は絶対断らねぇけどな。」


「それはなぜ?」


「依頼金が高額だからだ。そうなりたくて、冒険者になるヤツが殆どなんだぜ?」


「そうなのか……私、冒険者のこと、分かってなかったな……」


「ランクアップを提案しちまったけど、しねぇ方が良かったか?」


「ううん、それは構わない。決めたのは私だし。これで、エリアスも馬鹿にされなくなる……」


「俺の事を気にしてたのか?ったく、んな事どうでもよかったのによ……」


「でもここは……この場所は、エリアスの大切な場所だから……」


「アシュレイ……」



エリアスが私の頭をワシャワシャしてから



「ありがとな。」



と嬉しそうに言う。


王都に戻って来てから、エリアスは何だか落ち着いて来ている様だ。

王都に来て良かった。



「あ、それからアシュレイ、そう言えば白の石、まだ短剣に嵌めてねぇんだろ?後で嵌めるか?」


「え…?あ、うん……」


「どうした?」


「……多分……」


「多分?」


「私に白の石は嵌められないと思う……」


「え?なんでだ?」


「石を触った時、何となく分かった……」


「そうなのか?でも、一回試してみろよ。もしかしたら嵌められるかも知んねぇぜ?」


「……うん。分かった。」



食事が終わってから、私の部屋で、短剣に白の石を嵌めてみる事にした。


エリアスもそばにいて、その様子を見守っていた。


短剣と白の石を取り出し、短剣の窪みに石を当て嵌めてみる。


しかし、思った通り、少しうっすらと輝きはするものの、石は短剣には嵌まらなかった。



「やっぱり……ダメだった……」



私がエリアスの方に振り返って微笑みながら言うと、エリアスが私を引き寄せた。

それからずっと、私の頭をワシャワシャし続けた。



「エリアス……髪が……メチャクチャになるから……いや、なってるから……」



そう言うと、エリアスは私を抱き寄せた。



「……気にしてくれてたのか……?石を全部嵌められたら……誰にでも触れられる様になれるかも知れないって……」


「俺には……いっぱい触って良いからな!」


「それは……何だか違う気がする……」


「何でだよ!」



エリアスを見ると、目にちょっと涙を浮かべていたので、それを見てなんだか安心して、笑ってしまった。



「何で笑ってんだよ!」


「フフ……なんか大丈夫だ。エリアスがいてくれたから。」



そう言うと、また頭をワシャワシャする。


それから頭を自分の胸に寄せて、私の背中をポンポンした。



「エリアス……ありがとう……大丈夫だから……ありがとう……」



私より、エリアスが気にしている様で、何だか少し申し訳なく思ってしまった。


でも、エリアスがそうしてくれたから、私は思ったより落ち込まなかったんだ……





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る