第179話 刺客


エルニカの街を出て、ケルニエの街まで歩いて移動する。


エリアスが、魔物を退治して素材を集めないと俺は無一文のままだ、と言った事もあるが、あれだけ周りの魔素を奪ったのだから、それが回復するにも、ある程度の時間がかかるからだった。


もちろん、私の魔力もエリアスの魔力も、回復させるのに時間も必要だったのもあるが……


とは言え、エリアスはギルドに預けている金もあるから、もしもの時はそれを使えば良いと、私には伝えてくれていた。


エリアスの個人情報が、何だか私にはタダ漏れになっている気がする……



歩いて森の中を進むが、魔物は全く見かけない……


この辺りはそんなに魔物は多くないのは分かっているが、それでもこんなに遭遇しないのは今まで無かった。



「もしかしたら、光魔法のせいかな……」


「ここら辺にも及んでいるのか?!もしそうなら、すげぇ広い範囲にまで光魔法は行き届いてたんだな。」


「ケルニエの街にも届いてれば良いけど……」


「そうだな、それなら楽出来んのになぁ。」


「まぁ……そうだな……」


「ん?どうした?」


「いや、早く全ての街を浄化して、困っている人がすぐにでもいなくなれば良いのにって思って……」


「……ホント、優しいよな……アシュレイは。」


「そんなんじゃ……」


「今まで一人で旅してたんだろ?よくそんなんでやって来れたよな。」


「今までは……こんなに人と関わる事が無かったから…人と関わると、こんなに色んな事が起こるんだって、凄い発見なんだ。」


「そうか……触れなかったもんな……」


「一人じゃ経験できなかった事が、人と関わる事で色々経験できているから、レクスやエリアスには感謝してるんだ。」


「厄介事も増えるけどな。」


「それも踏まえてだ。良くも悪くも、一人だと何も無かったから……」


「アシュレイ……」


「だから、今、何だか充実してるんだ。最初は反対してたけど、エリアスと旅が出来て良かった。」



私がにこやかな顔を向けて言うと、またエリアスの目が潤んでいた。



「えっ!?私、今そんなに変な事言ったかな?!」


「そんなんじゃねぇよ……俺……絶対アシュレイを一人にはしねぇからな……」


「エリアスは……良い奴だ……」


「誰にでもって訳じゃねぇよ。俺はアシュレイの事、好きだからな。」


「私もエリアスの事、好きだぞ?」


「……それ……俺の言うのとは違うだろ?」


「え?違う……?」


「良いよ……今は……そばにいれるだけで良しとしとく。」


「え……うん……」


「今一番一緒にいて、アシュレイの為に動けんのは俺だけだからな。」


「……あっ!」


「えっ?!なんだ、どうした!?」


「あそこっ!見て!もしかしたら、温泉かも知れないっ!」


「温泉?!」


「もうすぐ日が落ちるし、ここら辺で野宿しよう!今日は温泉に入れそうだ!」


「そうか……温泉か……ったく……マイペースだよなぁ。そんな所にヤラれてる俺もどうかと思うけど……」


「エリアス、行こうっ!」



エリアスの手を掴んで、温泉まで走っていく。


今日は疲れがとれそうだ。


温泉の場所まで行って、触って温度を確認すると、丁度良い位のお湯だった。



「エリアス!お湯が良い温度だ!私は食事の用意をしておくから、先に温泉に入ってて!」


「あ、あぁ、分かった。ありがとな。」



それから私は食事の用意をした。


今日は、多めの油に香味野菜を入れて香り付けし、それからアストラの街で買った魚介類を入れて炒め、お酒を入れてからトムトを刻んだ物を入れ塩で味を整えて、茹でておいた小麦を伸ばして細く切った物を合わせて、サッと絡めて仕上げた物と、アッサリした野菜のスープを用意した。


温泉から上がったエリアスが、いつもの様に美味しそうに私の作った料理を食べてくれる。



「本当に料理上手ぇよな!野宿でこんな旨ぇ飯食えるなんて思わねぇから、すっげぇ嬉しい!」


「エリアスはいつも誉めすぎなんだ。旅が長いと、誰でもこれくらいは出来る様になるよ。」


「そんなことはねぇよ!俺はアシュレイに胃袋もヤラれちまってるぜ?」


「大袈裟だな。でもそう言って貰えると、作り甲斐があるよ。」


「あ、片付け俺がしとくからよ、アシュレイも温泉に入ってきたらどうだ?いい湯だったぜ!」


「じゃあ、そうさせて貰おうかな。」



久しぶりの温泉だ。


光魔法で体や服等を浄化できるが、やはりお湯に浸かると疲れが取れるし、凄く気持ちが良い。


ここのお湯は体に柔らかく、凄く癒されてる感じがする。

母と温泉を見つける度に、二人で喜んで一緒に入った事を思い出す。

凄く気持ちが良くて、眠ってしまいそうになる……



……音がした。


弓に矢をかける音……!


音のする方に目と耳の感覚を最大にして確認する。


結界を張って攻撃に備える。


矢が放たれて、バチンッッッ!と言う大きな音を出して結界に当たって落ちた。



「どうした!アシュレイ!」



エリアスがその声を聞いて、私の元まで急いでやって来た。



「無事か?!アシュレ……イ……」


「……エリアス……!」



すぐにお湯に浸かった!


見られた?!見えたのか?!


タオルで隠せてたのかな?!


どうしよう?!


恥ずかしいっっっ!!



「あ……その……何があった?!その……大丈夫か?」



後ろを向いたエリアスが確認するように聞く。



「こちらに向かって矢が放たれた……結界を張ったけど、魔力が弱いからあまり持たないかも……」


「分かった……確認してくる。」



エリアスが去ってから、すぐに出て服を着た。


それから急いでエリアスの元まで行って合流する。


そこには既にエリアスに倒された者達が数人いた。


すぐに周りに結界を張る。


それを確認してから、倒れた者達をエリアスが縛っていく。



「エリアス……どんな感じだ?」


「いきなり襲って来やがった。まぁ、俺の魔眼は魔力必要ねぇから、魔眼で戦力削いでから剣でやっつけりゃぁ、あっと言う間だったけどな。遠くからも狙われてんのは分かる……けど、何処にいんのかは俺には分からねぇ……」


「そうか……っ!エリアスっ!」



150m先位から、矢が放たれた。


しかし、まだ魔力が少なくて、完全な結界にはならない……!


矢が結界に阻まれて、私達に届く事なく落ちていく。

それでも、何本もの矢が降り注ぐ様に私達を襲う。

エリアスが私の前に立って、庇うように剣を構える。


目を凝らして確認すると、8人の男達が私達を狙っていた。


少ない魔素をかき集め、自分の魔力に変換して、それから雷魔法で感電させようとする。

距離があるので、使う魔力がいつもより多くなる……!


結界が敗れて、次々に矢が私達にまで届くが、エリアスがそれを剣で凪ぎ払う。


やっと男達を感電させる事ができた。


攻撃が落ち着き、エリアスが私の元までやって来る。



「アシュレイ、無事か?何ともないか…?」


「あぁ、私は大丈夫だ。エリアスは……」



見ると、エリアスの脇腹には一本の矢が刺さっていた。



「エリアスっ!」


「……これくらい、なんて事ねぇ……」


「これ……!毒矢だ!エリアス!」



エリアスがふらりと膝をつく……


それを倒れない様に抱き抱える。


テントまで空間移動して、エリアスを寝かせて矢を抜いて、回復魔法を施す。


でも……魔力が足らない……


魔素を集めて魔力にするが、この場所にある魔力をさっき奪ったばかりなので、なかなか魔素が集まらない!



「エリアス!エリアス!大丈夫か?!エリアスっ!」


「……アシュレイ……俺は平気だ……無理しなくて……良い……」


「助ける!絶対に助けるっ!」



エリアスの魔力も奪って、この辺りの魔素を奪って、襲って来た男達の魔力も根刮ぎ奪って、テントの周りに結界を張って、エリアスに光魔法で解毒し、回復魔法で治療する。



もう助けられないのは嫌なんだ!



エリアス!



絶対に死なせない!



何をしてでも、必ず助ける!






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