第168話 訃報


その日のうちに、帝国中に大きく知れ渡る事が起きた。



第5皇子レオポルド 急逝 享年28歳



それは帝位継承の儀が行われる一週間前の出来事だった。


元々体の弱かったレオポルドだったが、突然の死に疑問が残される。


もしかすると、暗殺されたのかも知れない、等の噂は後を絶たなかった。


これで帝位継承については、白紙に戻った状態になったのだ。


大々的な葬送儀礼が行われ、数日間帝都中が喪に服す。


帝城で参列している時、困惑、嫌悪、嫉妬、悲壮、悲愴、憎悪、焦燥、殺意、歓喜……実に様々な感情が入り交じっている。



その中で感じた……



そうか……レオポルドを殺害したのは……



第2皇子レンナルト……それに……ヴェストベリ公爵……この2人の策略か……



この2人に関しては、以前父上に報告した筈だ。

なのに何故対策出来ていなかったんだ?


聖女もいるこの状況で、何故レオポルド皇子を助ける事が出来なかったのか……


疑念だけが残る今回のレオポルド皇子の死……


しかし、それよりも気になる事と言えば……


次に帝位継承をする者が誰か、と言う事だ。


レオポルド皇子以外の皇子は、皆誰かに懐柔されている。

それがいけない訳ではないが、どの派閥にしても、それがこの帝国の為になる事はない。

逆に帝国民に、より負担がかかる様な現象が起こるだろう。


国が栄えるのは、そこに住む民が栄えていてこそだ。

過剰な税を強いたり、強制的に締め付けたりすれば、反感を買って次第に衰退して行く。

その事を分かり、民にも、それから貴族達にも納得させる技量を持った皇子は、レオポルド皇子以外にいなかったのだ。


皆、皇帝になれば、自分の好きな様に出来ると思っているのだろうか……?!


常に他国との協力関係を維持、もしくは優位に立てる様に交渉し、情勢の把握と調整、武力向上指導や維持、国内の管理に、輸入輸出の管理や関税管理に財政管理等、しなければいけない事は挙げればキリがない。

勿論これ等は担当者に任せれば良いのだが、最終的に判断し、決断するのは皇帝なのだ。


その仕事量たるや、いか程なのか?!……と、俺は幼い頃から、いつも父上を尊敬の眼差しで見ていたものだ。


父上の技量は素晴らしく、独裁政治と言われてはいたが、今父上に敵う技量を持った者はいないだろう。


簡単に取り入られてしまっている、第2皇子レンナルト……

彼は最も皇帝に向かない人物像だ。

全てに関して影響を受けやすい。

いや、自分自身が確立できていないのだろう。

間違って皇帝にでもなってしまえば、この国の未来は無い。


であるならば、まだ第1皇子クリストフェルの方が良い。

が、母親であるシュティーナ王妃の影響を受けすぎている。

しかし、シュティーナ王妃は財政の事等何も分かっていない。

その影響が抜けない限り、クリストフェル皇子を皇帝にはできないだろう。


勿論他にも皇子はいるが、派閥の影響を受けすぎている者が殆どで、あとは性格は良いが向いていなかったり、気弱過ぎたり、幼すぎたりと言った具合だ。


これだけ皇子がいる中で、皇帝になれる器を持つ者がほぼいないと言うのは、この国の未来が危ういと言う他無いだろう。


勿論、俺もその一人だ。


自分が皇帝に向いている等と思ったことは一度もない。

何なら、皇族にも向いていないとさえ思っている。

この生活を捨て旅人にでもなって、自由に思うように放浪するのが性に合っていると思っている。

いつか2人で旅をしたいと思っているんだ。



2人で?



誰と…?



俺は今、一体誰を思ったんだ?



そんな事を考えていると、父上から言伝てだと、侍従がやって来た。


俺は父上に呼び出されたのだ。



……嫌な予感しかしない……





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