第165話 残る思い
それから……
アデルを葬送する為に、孤児院の近くにある、少し小高い丘にある大きな木の下まで、皆でやって来た。
子供達が摘んできた沢山の花をアデルに添える。
まるでお姫様みたいだねって、子供達が口々に言う。
子供達にお礼を言って、それからシスターと子供達は先に帰ってもらい、暫くエリアスと、花に囲まれたアデルの亡骸のそばにいた。
エリアスは何も言わず、ただアデルの頬を撫で続けていた。
「エリアス……アデルをどうしてあげたら良いだろう……?インタラス国では土葬するのが習わしだそうだけど、私が光で浄化する事も出来る……そうなると、アデルの亡骸は無くなってしまうけど……」
「……アデルが今世に残したい物なんて無いと、俺は思う。全て天に還してやって欲しい……」
「分かった。」
ルキスを呼んで、私と重なる様にすると、私の体が光りだす。
アデルに触れると、アデルの体も淡く光り、それから光が強くなった。
その光がまた淡くなっていき、光が消えるとそこにアデルはいなかった。
エリアスはただじっと、アデルがいた場所を見下ろしていた。
ふと気付くと、霊体になったアデルがエリアスの前にいた。
「アデル……」
「ありがとう、エリアス。私の気持ちを分かってくれて…それと、ごめんなさい……もうずっと私は壊れていたの。自分で死ぬことも出来ずに、ただ耐えるだけの日々で……エリアスが助けに来てくれて、凄く嬉しかった。でも……一番会いたくて…一番会いたくなかった……」
「アデル、すまねぇ……俺が遅すぎた……もっと早くに……っ」
「エリアスは何も悪くないの……やっとこれで私は解放されたの……ありがとう、エリアス……」
「アデル……」
エリアスがアデルに触れようとする。
しかしそれは空を切る。
「エリアス……」
アデルがそっと、エリアスの頬を包み込み、口づけをする。
決して触れられない、最初で最後の口づけ……
「さようなら……私の大好きな人……」
それからゆっくりとエリアスから離れて、アデルが私の元までやって来て微笑んだ。
その微笑みは美しく、女神の様に神々しくもあった。
「アシュレイさん、ありがとう。最後に自分の姿を取り戻せてどんなに嬉しかったか……エリアスの事、お願いしますね……」
「……はい。」
微笑むアデルに、私は涙を隠せず、でも微笑んでアデルの手を取った。
それから体を輝かせて
ゆっくり……ゆっくり……
光に包まれたアデルが空に昇っていく……
その姿を、私達はただずっと見送っていた……
大きな木に背を預け、私とエリアスは2人で暫く腰を下ろして、空を見上げていた。
空には満天の星が輝いていて、あの一つにアデルはなったのかな、レクスも星になったのかな、なんて話をしていた。
「あの時……俺が部屋に戻ったら、アデルは俺に抱きついてきて……アデルは心細いんだろうと、俺もアデルを抱き締めようとして……その時に俺の脇差を抜いて、自分の胸に刺したんだ……」
「そうだったんだ……私がアデルの未来も見ていれば……」
「いや、俺がもっと早くに見つけてあげる事ができてたら……」
「私が回復魔法を使ったのは良かった事なのかな……」
「孤児院から娼館に売られた方が良かったのかも知れない……」
後悔ばかりが口を衝いて出る……
でもそう思っても、今となってはどうしようもない……
ただただ、悔しさだけが胸に残る。
「エリアス……悔しいね……」
「アシュレイ……俺はすっげぇ腹が立つ……」
「本当に……自分にも腹が立つけど……」
「あの教徒の奴等が許せねぇっ……」
「うん……私も許せない……」
「アシュレイ……手を貸してくれねぇか……」
「聞くまでもない、エリアス。当然だ。」
今もマルティノア教国に孤児院があるのかどうかは分からないけど、もしまだあって、そこにいる子達が不遇な扱いを受けているのであれば、それを止める事が少しでもアデルの償いになりそうな気がする。
エリアスと私は言わずとも、2人でそう決心した。
でも今は……
アデルを思って、ただ2人で空を見上げていたんだ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます