第157話 母の思惑


「どうする?ランク上げるか?」


エリアスに言われてハッとして


「いや……今はこのままで良い。」


「そっか。まぁ、アシュレイがそれで良いんなら良いけどな。」


「換金はエリアスに任せてしまうけど……」


「それくらいどうって事ねぇよ。……ん?」


「ん?」


エリアスの目線を辿ると、私はエリアスの肘辺りの服を握っていた。


「あ!ごめんっ!」


「いやっ!良い!全然問題ねぇっ!」 


すぐにそれを離す。


「離さなくて良かったのによ……」



自分でもビックリした。


無意識に人に触れているなんて……


こんなこと、今までなかったのに……



「まぁ、換金したし、この街で一泊すっか?」


「うん……」


「さっきからどうした?」


「え?あ、うん、何でもない。」


「俺には何でも言えよな?一緒に旅をする仲間だろ?」


「……うん。ありがとう。エリアス。」


「飯でも食って、ちょっと話すか。」



それから2人で食事をしながら話をした。


私は気になっている事を、エリアスに話してみた。



「そうだな……今の話だけ聞くと、アシュレイの母親は何かから逃げている様にも考えられるな。」


「やっぱりそう思うか?」


「状況を考えればな。しかし、何から逃げてたんだろうな。」


「……分からない。もしかしたら、私が男を装うのも、逃げる為に必要な事だったんじゃないかな……」


「そう考えると辻褄が合うのか……」


「でも、じゃあ何でいきなり私の前からいなくなったんだろう?」


「アシュレイは物心ついた頃には旅をしていたんだよな?」


「あぁ、そうだ。」


「小っちぇのが大きくなったら、それは誰か分かんなくなるかも知んねぇけど、大人じゃ容姿はそう変わらねぇからな。」


「母といると、私が母の子だと分かってしまうから……?」


「一緒じゃねぇ方が、アシュレイの事は誰にも気付かれねぇから……か?」


「だから私が成人してから、母は姿を消したのか……?」


「それまでは心配で、離れられなかったのかも知れねぇな……」



考えれば考えるほど、行き着いた答えが、パズルのピースを嵌めるように埋まっていく。



母は何かから逃げていた。


終始目立たない様にしていたのはその為。


それは私を隠す為…?


だから、私を男の子にした。


大きな街や王都には近寄らなかったのは、人が多い所を避けていたから…?


私の前からいなくなったのは、自分といることで私の存在が分かってしまうから……?



何から逃げていた……?



私を誰から隠そうとしていた……?



新たな疑問が胸を覆いつくす。




「そんな不安そうな顔すんな……」


「え?あ、ごめんっ!」


「謝んなくていいぜ?大丈夫だ、俺がずっと一緒にいるからよ。アシュレイの母親の所へも、いつか飛んで行けるかもしんねぇだろ?」


「そうだな……エリアス。ありがとう。」


そう言うと、エリアスは私の頭をワシャワシャしだした。


これは彼なりの慰める行為なんだろうな。


ボサボサの頭になったので、私もお返しにエリアスの頭をワシャワシャした。


2人でボサボサの頭になって、また笑いあった。


誰かといるって事は、重たい気持ちを共有したりも出来るんだな。

そうして気持ちを軽くする事も出来るんだな。



ディルク……



ディルクは今どうしてる?



あれから石を何度握っても、ディルクからの返事はないままだった……






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る