第156話 思い込み
エリアスと2人で、まずはアクシタス国へ行く事にする。
エリアスと手を繋ぎ、行ったことのある街『アストラ』を思い浮かべる。
空間が歪んで、すぐにアストラの街が目に見えて、路地裏辺りに移動できた。
「移動する場所は慎重に考えないとな。来たところを誰かに見られたら、大騒ぎになるかも知れねぇしな。」
「そうだな、これからは人目のない場所を確認しておくことも必要だな。」
「じゃあ、行くか。」
「エリアス。」
「あぁ?」
「まだ手、繋いでる。」
「あ、そうか。まぁ、俺は繋いだままでも構わねぇけど?」
「……男同士で手を繋いでる様に見えていいならそうするが?」
エリアスが即座に手を離す。
「全く……何でアンタは男になってんだよ?」
「母に幼い頃から、男の子として育てられていた。ちゃんとした理由は……分かっていない。」
「ちゃんとしてない理由は?」
「幼い頃は、何度も連れ去られそうになったからな。その時に目に魅了があったのかどうかも分からないけど、女の子の姿だともっと拐われそうになっていたのも知れない、と母が言っていた。」
「大変だったんだな…確かに、アシュレイが女の姿だったら……」
エリアスが何やら考えてる様で、それから何故か顔を赤らめた。
「……なに考えてるんだ?エリアス?」
「いや、何でもねぇっ!そうだな、やっぱりそのままで良いな、アシュレイはっ!」
「もう女の姿になる事はないな。エリアスに用意してもらったドレスには申し訳ないが……」
「あれ、凄く似合ってたよな…また見てぇ……」
「もう着ない。」
「俺の前だけでも、もう一回位着てみろよ。」
「嫌だ。」
「じゃあ、他のヤツ、買ってやるからさ。」
「いらない。必要ない。」
「っとに、強情だよな。アンタは。」
「だって、着る意味がないだろ?」
「俺の癒しだよ!」
「……癒し?」
「え、あ、……まぁ、そんな嫌なら仕方ねぇけどな……」
「何だかよく分からない……なんで癒しになるんだ……?」
「何でもねぇよっ!さぁ、行くぞっ!」
そんな他愛もない話をしながら、アストラの街を歩く。
アクシタス国は海が近いから、露店には鮮魚も多く売り出されていた。
旅の食料として新鮮な物を鑑定し、購入していく。
輸入されてる物も多く、調味料や野菜や、この辺りでは珍しいエゾヒツジの肉も手に入れた。
宿を決めて、この日はこの街に泊まることにする。
それから夜までは別行動で、各自必要な物の購入等をした。
夜、2人で宿屋の一階にある食堂で食事をとり、この街で変わった事や気づいた事はないか等話し合って、それから部屋に帰った。
部屋は別々にとっていて、今日はもう寝る事にする。
次の日街を出て、次の街まで歩く。
途中の森で魔物を倒し、素材を確保する。
エリアスも素材の扱いには慣れていて、一緒に作業をすると、凄く早くに解体できる。
これがとても有り難かった。
換金する時は、エリアスにして貰う様にした。
Aランク冒険者の信頼は何処に行っても厚く、どんな素材を持って行っても何も疑問に持たれる事もなく、尊敬の眼差しを持って対応されるのだ。そして、査定もGランクとは違い高めにされていて、同じ素材でも買取り額は多かった。
「さすがAランクだな……」
「アシュレイもランク上げたら良いんじゃねぇか?何故上げないんだ?」
「あまり目立ちたくはないからな。」
「なんで目立ちたくないんだ?」
「なんで……?」
そう言えば何故だろう……?
母と旅をしている時から、私達は目立たない様に旅をしていた。
自分の能力が分かってからは、自分で人に触れない様に出来たし、ちゃんと男を装っている。
今までは自分の能力のせいで、母がそうしていると思っていたけれど、こうやって考えてみると、あまり大きくない街や村にしか行かなかったのも、あんなに目立つ事を避けていたのも、もしかすると他に理由があったのではないだろうか……
「アシュレイ?」
「え?あぁ、すまない、ちょっと考え事をしていた。……そうだな……何故私は目立ちたく無かったんだろう……ずっと母と共に、そうやって旅をしていたから、そうするものだと思い込んでいたのかも知れない……」
今迄の事を思い返す。
私の能力を隠す為に、こんな旅をしていると思っていたけれど、それだけじゃなかったとしたら……
もしかして……
母は…何かから………逃げていた………?
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