第151話 アンネローゼの気持ち


リディと別れて、自分の部屋に戻ってきた。


ずっと涙が流れて止まらなかった。


分かっている。


これは私の嫉妬なんだ。


私はリディにずっと嫉妬している。






大好きだったお母様…


私が4歳の頃、突然お母様が赤ちゃんを連れて帰ってきた。


藍色の髪が綺麗な、可愛らしい男の子だった。


名前はリドディルクって言った。


呼びにくいねって言ったら、リディと呼びなさいって、お母様は微笑んで言った。


その時はまだ、突然赤ちゃんがやって来た事に、何の疑問も持たなかった。


私に弟が出来た事が、その時は嬉しかった。


それからお母様は、リディに付きっきりになった。


私の事よりも、リディの事を可愛がっている様に見えた。


私は幼い頃からやんちゃで、いつも生傷が絶えない状態だったけど、リディが来る前までは、お母様がよく私の手当てをしてくれていた。


だけどリディが来てからは、手当てをして貰いにお母様の元まで行くと、そんな傷でリディに近づいてはいけないと言って、それからお母様に手当てをして貰えなくなった。


お母様に愛されているリディに、私は段々嫉妬するようになってきた。


私が6歳を過ぎた頃、お母様が病に臥せった。


その時から、リディはお母様の元から離れて、使用人達が面倒を見るようになった。


リディは私の後を、よくついて来ていた。


でも、気付くと何処かへ行っていて、慌てて探すけど見つからなくて、使用人達と皆で必死に探して、でも気付くと帰って来ていて。


そんな事が何度もおきて、リディの面倒をみるのが嫌になって、私は幼馴染みのマティアスと一緒に、よく剣の稽古をするようになった。


お母様が病に臥せってから一年程経ったある日、容態が急変した。


息も絶え絶えなお母様が口にしたのは、リディの名前だった。


その時リディは、また何処かに行っていた。


私に、リディの事を頼むと言って、そのまま息を引き取った。


悲しくて、虚しくて、でも腹も立って、ずっと私は泣き続けていた。


リディが帰ってきて、安らかに眠るお母様に触ろうとした時に、悔しくて思わず突き飛ばしてしまった。


それから暫くして、リディが別の屋敷で育てられる事になった。


その理由が分からなかったが、正直私は安心した。


これで私は、醜い自分にならずに済むと思ったからだ。


しかし、魔法を教える教師や、勉強を教える教師も、皆がリディを褒める。 


リディと同じ教師だったから、別々に講義を受けてはいたけれど、同じ兄弟だからかその出来具合を比べるのだ。


リディは魔法にも長けていて、勉学にも聡い。


私とは比べものにならない位、全てにおいて天才と呼ばれる程、出来が良かった。


その頃には気づいていた。


リディは母の子ではないと言うことが。


そして誰よりもリディに才能があって、自分とは違うと言うことが分かっていたのだ。


久しぶりに会ったリディが私を見つけ、走って抱きつきに来ようとしたのを、そんな嫉妬から思わず頬を叩いてしまった。


その時のリディの顔が、私は今でも忘れられない。


そうだ。


リディが悪いんじゃない。


リディは何も悪くない。



悪いのは…



そんなリディの才能を羨み


お母様からの愛を一身に受けていた事を羨み


誰にも優しく出来ない私が一番悪い。


誰にも認めて貰えない自分が許せなくて。


お母様が最後に言った、リディの事を頼む、と言ったことも、何も叶えることもせず。


ただ、リディを拒否して遠ざけて。


帝位継承の指名を受けたのを知った時も、リディ以外が皇帝になるのは考えられないと、誰よりもその才能を分かっているのに。




リディを受け入れられない自分が許せない。




酷い事を言ってリディを傷付けた自分が許せない。




ごめんなさい お母様……




ごめんなさい リディ……





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