第102話 追懐2


俺は彼女をそっと抱きしめた。



「な、何するんだ?!」


「まずは彼女の体を魔法で温める。」


「分かったっ……!」


触れた手から、彼女の冷たい体温が伝わってきて、俺の体が一気に冷える。


体の隅まで冷えて、崩落ちそうになる。


その代わりに彼女が少し温かくなって来た。


自分の体を魔法で温める。


これは火と氷の魔法を合わせたものだ。


体の血管自体を温めるのたが、火だけでは熱くなり過ぎてしまうので、氷魔法で温度を調整する。


自分の体なら何とかできるが、他の人に作用させた事がなかったので、こう言う方法をとったのだ。


そうする事で冷えた体が温まり、なんとか倒れずに済んだ。


少しずつ、彼女の体温が上がって来た。


それを繰り返していると、彼女の体は平温になっていた。



「アッシュ、大丈夫か?」


「あぁ、助かるぞ。」


「良かった!俺、野宿できそうな場所、探してくるぞ!」


レクスは安心したのか、そう言って消えた。



しかし、彼女は脱水症状を起こしかけていた。


水分を補給しないといけないな。


水筒を彼女の口にあて、飲ませようとしたが、上手く飲み込んでくれない。


仕方なく、俺は水を口に含ませて、彼女に口移しで水を飲ませた。


今回は上手く飲み込んでくれた様だ。


何度かそうやって水を飲ませる。


彼女の体がかなり回復してきた様だ。



「……良かった。」



彼女の頬に手をやる。


また暖かい感情が流れてくる。


その暖かさに、俺の心が安らいでいく。


こんな感覚は初めてだった。


ずっと彼女に触れていたくなる。



「兄ちゃん!あっちに野宿できそうな場所があったぞ!」



レクスが帰ってきて、また我に返った。


「あぁ、分かった。移動しよう。」


彼女を抱え上げて、レクスの言う場所まで歩いて行く。


触れている間、少しでも彼女の負の感情を取り除こうと、思わず抱える手に力が入る。


その度に足元がふらついてしまう。


思ったより、彼女の心は傷付いていたんだな……


暫く歩くと、木々が少し拓けてちゃんと野宿が出来そうな場所にでた。



「良い場所だな、レクス。」


「だろ?!良かった!」



そこにそっと彼女を寝かせて、自分の外套を上から掛けた。


それから彼女の周りに結界を張って、周りの気温が下がらない様にする。


火を起こして、スープを作る。


火の周りに腰をかけて、スープを煮込んでいる間に、レクスから話を聞いた。


どうやら、聖女を獲得する為の騒動にレクスが巻き込まれた様だ。


その聖女候補が彼女だったらしい。



「なぁ兄ちゃん。さっきからアッシュを『彼女』って言うけどさ。アッシュは女の子なのか?」


「気づいてなかったのか?」


「うん……」


「回復魔法を使えるのは、基本的に女性だけなんだ。」


「そうなのか?!」


「回復魔法が使える人は貴重だからね、国が挙って確保しに来るんだ。しかも強制的にね。俺が住む国で聖女を見かけた事があるが、悲しくて、家に帰りたがっている感情がヒシヒシと伝わってきたよ。」


「そうなのか……だからシスターは、アッシュのことを隠そうとしてたんだな。」


「しかし、何処の国の騎士だったんだろうか。」


「んーと、オラキ?オルキン?とか?」


「オルギアン帝国か?!」


「そう!その名前を言ってたぞ!そこに女の騎士もいた!青い髪のキレイな人だったぞ!」


「……姉上か……」


「え?!なに?」


「いや、何でもない。そうか、災難だったな。」


「でも、男が女を守るのは当たり前だろ?」


「そうだな。レクス。」


「そうだぞ!あ、兄ちゃんの名前、何て言うか教えてくれよ!」


「……ディルクだ。」


「ありがとな!ディルク!お陰でアッシュが助かった!」


「男が女を守るのは当然なんだろ?レクス。」


「そうだな!当然だ!」


2人で笑い合いながら、レクスとは色んな話をしていたのだが、時折彼女の側で泣いている少女が見えた。


その姿を見る度に、俺の心に悲壮感漂う感情が流れてくる。


少しでも彼女の力になりたい、俺はそう思ったんだ。







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