第101話 追懐1


アシュリーと初めて会った日の事を思い出す。



俺が銀髪の情報を集めるべく旅をしていた時だ。



もう日も落ちかけてきたから、そろそろ野宿する場所を決めようとしていた頃、一人の霊を見かけた。


その霊はかなり急いでいる様で、あっちこっちへ何かを探している様だった。


そして俺を見つけて、凄い勢いで近づいてきた。



「兄ちゃん!兄ちゃん!助けてくれよ!」



それは茶色い髪の少年だった。



「アッシュが大変なんだ!死んじゃうよ!

お願いだ!助けてくれよ!」


必死で俺にすがるように訴えて来る。


「何処にいる?」


彼の目を見て答えると、驚いた表情で


「俺の事が見えんのか?!や、やった!良かった!」


「そこまで連れて行ってくれ。」


「ありがとう!こっちだ!」


それから急いで、少年が示す場所まで走った。


少年はレクスと言った。


森の木が鬱蒼と生い茂る場所に、一人倒れている人を見つけた。


「ここだ!兄ちゃん!お願いだ!アッシュを助けて!」


頷いて、近くまで行く。



不意に流れてきたいくつもの感情。


すると、目の前に小さな女の子が見えた。


その子はずっと泣いている。


その子の前まで行き、膝をついて目線を合わす。




「どうして泣いている?」


「うっうっっ!レ、レクスが!レクスっ!」


「レクスがどうしたんだ?」


「私のせいでっ!し、死んじゃったのっ!うぅっ!」


大きな目から涙をいっぱい流して、少女は悲しんでいた。


「わ、私が、関わったから、レクスはっ!うっうっ!」


「そんな事はない。レクスが君をとても心配しているよ。」


「うっ、うわぁぁぁぁーんっ!」



少女の姿で絶えず泣き続けている。


俺はそっと少女を抱きしめた。


すると、少女は驚いて



「ダメだよ!私に触ったらダメだよ!」


「どうして?」


「だってっ!みんな私を忘れちゃうもの!」


「……忘れないよ。」


また少女は目に涙をいっぱいためて


「私を忘れないで……」


そう言うと、フッと消えた。





「何してるんだよ!兄ちゃん!早く助けてやってくれよ!」


気づくと、俺は膝をついたままその場にいた。


今のは頭の中の情報か、それとも本当に見えていたのか……


倒れている人を見ると、あの少女が大きくなった様な感じの顔立ちをしていた。


そっと近寄って、頬に手をあててみる。


悲しみ、寂しさ、後悔、苦しさの感情が、俺の頭の中に流れ込んでくる。


それから、彼女の、人を慈しむ思いが心を満たしていく。


心から人との関わりを欲していながら、それが敵わない、焦がれる思い。


切なく、そして暖かい感情が、絶えず俺に流れてくる。




「兄ちゃん、アッシュは大丈夫か?!」


言われて、ハッと我にかえる。


「かなり体が冷えている。このままでは危ないな。」


「ど、どうしたら良いんだ?!」


「大丈夫だレクス。必ず助けてやる。」


すると、レクスは安心した顔をした。







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