第91話 精霊達の力


「どうなったんですか?!」


オルグがディルクに確認する。


「この辺りにいる森の精霊達にも協力してもらいました。この森に余所者が入ろうとすると、精霊達が阻みます。これは迷いの森と似た感じになっていますが、その時々で精霊が場所を変えるので、攻略されることはありません。」


「おぉっ!それは有難い!しかし、我らは森で狩りをする事もあります。その時はどうすれば……」


「大丈夫です。精霊達が村人の顔を覚えました。村人と村人と一緒にいる人以外の者が近づくと、迷わせる、と言った類いになります。」


「そうですか、安心しました。」


「ディルク、それでは闇の精霊は必要ないのでは?」


「いや、それだけでは、もし大軍が攻めてきた時に対応できなくなる。」


「そんな、大軍なんて大袈裟な……」


オルグが恐縮したように言う。


「如何なる可能性も考えておかなければいけません。大軍でなくても、上位の精霊使いがやって来たら、森の精霊位では太刀打ちできない。」


「分かった。テネブレ!」


言うと、ゾワゾワとした感じが周りに蔓延り始める。


皆が何事かと身震いしながら周りを確認し出す。


黒い光の粒の様な物があちらこちらから集まってきて、それが一つの塊となった。


「会いたかったぞ。アシュリー。」


そう言って私の左腕に絡みつき、顔を覗き込む。


「テネブレ、力を借りたい。」


「それは嬉しいねぇ。」


私の身体中を這うように、グルグルと周り出す。


「この森にある村を守りたい。森にいる精霊達が、外敵から守るように作用してくれている。

テネブレはテネブレの出来る範囲で協力して欲しい。」


「我一人でもどうにか出来る事を協力とは。

我も舐められたものだな。まぁいい。お前の為なら何でもしてやろう。アシュリー。」


私の体を舐め尽くす様に這いながら、テネブレはフッと姿を消した。


地面から暗い闇が広がる様に、地を這って拡がって行く。


それを何も出来ずにただ皆で見続けている。


足元がザワザワして、何とも心地が悪い。


暫くして、地面から一つの闇が這い出て来て、また私の左腕に絡み付く。


「これで良いだろう。」


「ありがとう。テネブレ。」


「またいつでも呼ぶがいい。ではな。アシュリー。」


私の体から離れ、ディルクを一睨みするように顔を近づけてから、また私の所に帰ってきて、這うように的割りつきながら、テネブレは黒い光の粒の様になって、分散させるように周りに消えていった。


テネブレが私の体を這って来た時に、この森に何をしたのかが分かった。



「……こんなに強力な精霊だとは……」



オルグもディルクも、驚いた顔をしていた。


「この森に来た余所者には、恐怖が与えられる。それでも進もうとすれば、数日間の記憶が無くなるようだ。」


「そ、それは我々には……」


「勿論、大丈夫だ。村人と、村人と一緒にいる人は対象外としているみたいだ。」


そう説明している時に、いきなり目の前が光輝いた。


眩しくて目を細めながら、光が治まった時に確認してみると、そこには光の精霊、ルキスがいた。


「詰めが甘いのよ。テネブレは。ディナ!」


言うと何もない所から、歪みを開けて出てくるように、一人の精霊が姿を現した。


紫の髪が美しく、高潔な雰囲気をもつ精霊がそこにはいた。


「どうしたのかしら?ルキス」


「この森に来て倒れた余所者がいたら、他の場所に転送させて下さるかしら?」


「貴女には借りがあったから、それを返す時なのね。」


森周辺をディナはグルグルと周り、何かを確認してから、またグルグルと周りだした。


所々、空間の歪みの様なものがあって、それが消えたと思ったら別の場所で見えたり、この辺りの空間が異様な感じになっている気がする。


暫くして、ディナがルキスの元に戻って来て


「終ったわ。」


と、報告する。


「ありがとう。ディナ。」


微笑むルキスに、ディナは微笑み返した。


それからディナが私の元までやって来て


「貴女とはまた会いそうだわ。」


そう言ってから、ディルクの方へ行った。


「貴方の事が気に入ったわ。私と契約する?」


「出来るのか?」


「貴方の腕輪。これ契約の腕輪だわ。」


「そうなのか?!」


「知らずにつけていたの?」


「あぁ……」


「他の精霊とはどうやって契約したの?」


「いや、気付いたら契約が終わっていた……と言うか、契約している事も知らなかったな。」


「それは凄い能力って事だわ。では、私も勝手に契約するわね。」


そう言ってディナが腕輪に触れる。


「契約は結ばれたわ。」


「はやいな。」


「いつでも呼び出していいわよ?私を呼び出さなくても、使える様になってるはずだけど。

ではまた……」


そう言って何もない所をこじ開けて、ディナは消えた。


また皆で呆然と立ち尽くすのみだった。



「アシュリー?」


「あ、ルキス。今のは……?」


「ディナと言って、空間に作用する事が出来る精霊です。以前手を貸した事があったから、それを返して貰ったのです。」


「良かったのか?」


「いつでもお呼びなさいといってるでしょう?アシュリー。」


そう微笑んでから、ディルクの方へ行く。


「こんな所で会えるなんてな。ルキス。」


「アシュリーを守ってくれたのね。ありがとう。ディルク。」


それから、レクスの元まで行って


「貴方も頑張りましたね。レクス。ありがとう。」


微笑んでルキスは光耀いて消えていった。





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