第68話 乾杯

3人で、テントの場所まで戻ってきた。


火を点けて、スープを温め直す。



「食事は済んでいたのか?」


「い、いえっ、まだです!」


「じゃあ、一緒に食べよう。」


少女に微笑んで言うと、顔を赤らめて頷いた。


オークの肉を一口大にいくつか切り、串に刺して塩をふり、火で焼ける様に焚き火の回りに刺す。


木のボウルに入れた温まったスープと、木の皿に乗せたパン、水が入った木のコップを少女に手渡す。


自分の分の他に、レクスの分も私の横に用意する。


「誰か他にいるんですか?」


「え?あ、あぁ。これは、その……私を護ってくれている精霊に、ね。」


「あ、そうなんですね!」


「俺、精霊じゃないぞ!」


まぁまぁ、と言った顔をレクスに向ける。



この世界では精霊の事を信じている人が多いが、実際に見たことがある人は殆どいなく、いると良いな、位に思われている。


なので、精霊に食事を用意してる人は、信心深いと思われる節がある。



私がコップをつき出して、


「じゃあ、乾杯。」


と言うと、少女はキョトンとした顔をして、それから笑顔で


「はい、乾杯!」


と言ってコップを合わせて来た。


「アッシュ、乾杯はさ、お酒以外ではしなくていいと思うぞ!」


レクスが言ってきた。


「え!そうなのか?!」


いきなり大声で言ってしまった私に、少女がビックリして


「え!何、どうしたんですか?!」


と、私の顔を見つめる。


「あ、いや、すまない、何でもないっ!」


と、少女とは別の方に顔を向けた。


は、恥ずかしい……


下を向いて1人反省する。


そうか、だからあの時、ディルクも笑っていたのか……


「アッシュ、気にすんなよ!今まで1人だったんだから、知らなくてもしかたないぞ!」


レクスのフォローが痛い……


??な顔をした少女は、スープを口にする。


「あ、このスープ、スッゴく美味しい!」


「そ、れは良かったっ!」


まだちゃんと立ち直れてなかったが、とりあえずなんとか笑顔で答える。


「その、串焼きも焼けたら食べて。オークの肉だが、食べられるか?」


「はい!大好きです!」


「良かった……」


ふぅ、……何とか落ち着いてきたかな。


「アッシュ、このスープ、本当に旨いぞ!」


レクスの方を向いて、うんうん、と頷く。


良かった。レクスが味を感じられて。


私もスープを口にする。


我ながら美味しく出来た。パンと良く合う。


オークの串焼きも、程よく塩がきいてて美味しい。


少女は余程お腹が空いていたのか、ガツガツ食べていた。


「充分おかわりもあるから、良ければいっぱい食べてくれ。」


「はい!ありがとうございます!」


そうして、食事は進んでいくのだった。





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