第64話 あの時


リンデの木の下で、2人座って話しをする。



私が少し落ち着いて、レクスは安心した顔をした。



「アッシュは泣き虫だな!」


「そ、そんな事はないっ!」



へへへってレクスは笑いながら、私のそばにいてくれている。




それから、私がイルナミの街から出て、1人旅をしていた時の事を聞いた。




私がろくに食べもせず、眠りもせず、休まずに歩き続けて、倒れた時。


レクスはどうして良いか分からずに、周りに誰かいないか、あっちこっちへと人を探したそうだ。


しかし、やっと人を見つけても、レクスの事を分かる人はいなくて、皆通りすぎていく。


それでも諦めずに駆けずり回っていた時、ディルクに会った。


ディルクはレクスの事が分かった様で、急いで私が倒れている所まで駆けつけてくれた。


倒れている私に、ディルクは外套をかけ、体温が低くなっていた私を魔法で暖め、水を飲ませ、火をおこしてそばで見守ってくれていたそうだ。


私が目覚めるまでの間、レクスはこれまであった事を、ディルクに話していたらしい。




「って言ってもさ、俺が覚えてるのは、どっかの国の騎士のヤツに蹴られてさ、吹っ飛んで、アノヤローって思って見たらアッシュがいてさ、剣を向けられてるから、ヤバいぞって思って、急いでアッシュの前に行って、それからすぐに目の前が真っ暗になってさ。」


「そうなのか?」


「うん。次に気がついたら、木の所でアッシュが泣いてて、俺は精霊達にどっかに連れて行かれそうになってたんだけどさ、待ってくれってお願いしてさ、で、アッシュについて一緒に行くことにしたんだ。」


「行かなくて良かったのか?」


「俺はアッシュと一緒にいたかったんだ!そりゃあさ、会ったのはほんのちょっとだけだったけどさ、でも、俺、アッシュの事が好きだからさ。」


「私も好きだぞ。レクス。」


2人で、にひひって笑い合う。






そうか。


だから、ディルクは私に、心配しているヤツがいる、なんて言ってたんだな……


あの時、レクスとディルクがいなかったら、私はどうなっていたのだろうか。




しかし……




「なんで東に行って、って……」


そう呟くと


「俺が精霊に教えてもらったんだ!精霊が見えるようになる石が、東にあるって。それを手にすると、俺の事も見えるかも知れないからって。」


「そうだったんだね……」


「あの時、俺、アッシュが死んじゃうかもしれないから、スッゴく、スッゴく!心配したんだぞ!」


「……ごめんなさい……」


下を向いて、小さな声で謝った。


それを見たレクスは、顔を赤らめて


「アッシュ……可愛いぞっ……」


と、レクスも下を向いた。


それから顔を見合せて、また2人で笑った。





やっぱり、レクスといると楽しい。




とてもとても楽しい。




これから私は、もう1人じゃないんだな……








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