第46話 アンネローゼの事情6


聖女の事を話すと、皆、俄然やる気を出した。


そうして皆を従え、アンネローゼ達は孤児院まで赴いた。


田畑が拡がる一帯にあった孤児院の前には、人だかりが出来ており、大きな声で口々に叫んでいた。


これは聖女候補を見つけた時に、よく見られる光景だった。


医師はいるのだが、治療して貰うのが高額なのは勿論あるが、治療しても完治出来るのは、ほぼ無い事なのだ。


病気の進行を止める、もしくは緩やかにする位が関の山で、それでも藁をも掴む思いで高額な治療費を払い続けている、と言った具合だった。


そんな時に、一日で、しかも完治している状態を見れば、病人や怪我人を抱えている者達が集まって来るのも仕方の無い事だ。


そんな状態の孤児院を見て、気にせずに真っ先に前に出たのは、やはり副長ヘルベルトだった。



人だかりを蹴散らし、孤児院の前まで行き、大声で叫んだ。



「我らはオルギアン帝国の騎士である!聞きたいことがある!責任者は出て来られよ!」



聞いた人達からどよめきが起こる。


扉が開き、シスター、カエラが出てきた。


しかし、シスターは頑なに知らないと言い張る。


ヘルベルトがシスターの襟元を掴んで投げ棄てた。


それを見ていた孤児院の子供達は、扉から一斉に出てきてシスターを庇う。


一人の男の子にヘルベルトは足蹴りを放った。


いくらなんでもやり過ぎだ、と思い、アンネローゼが止めようとした時、あの旅人の男が現れた。



「やめろ!」



と言うなり、ヘルベルトはいきなり倒れた。


アンネローゼもマティアスも、何がどうなっているのか分からなかった。


それを見た他の騎士が、刃向かう旅人に剣を向ける。

しかし、その騎士も、すぐに倒れてしまった。


これは旅人が何かしたのだろう。


何をしたのかはさっぱり分からなったが、とにかく彼を止めなければいけない。

騎士達は敵と見なして攻撃体制に入った。


攻撃体制に入った途端に、一人の騎士が後方で魔方陣を組み立て始めた。

騎士の中で唯一魔法が使えるその者は、前方に出ている騎士に隠れて、呪文を唱える。


それを見たアンネローゼは止めようとした。


彼は重要人物であり、傷付けない様に確保したかったのだ。



「攻撃はやめ……!」



時既に遅しで、氷の矢が飛んで行き、旅人を庇うように前に出た孤児院の少年の胸を貫いた。



それを見た旅人は嘆き、少年を抱き抱える。



泣き叫び、体から淡い緑の光を放つ。




彼が……いや、彼女が聖女だったのか……




アンネローゼも騎士達も、その強い輝きに、かつてない程の力を確信した。



しかしそれから、旅人から光が拡がっていき、目の前が淡い緑の光に包まれた時には、皆が深い眠りに陥っていったのだった。







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