第41話 アンネローゼの事情1


ーーアシュレイが街に来て3日経った頃ーー



騎士の鎧を身に纏う、深い青の髪の、美しい容姿の女性が数人の騎士に囲まれて移動していた。


彼女はオルギアン帝国の聖騎士アンネローゼ・アルカデルト。


数人の部下を連れてアクシタス国のアストラと言う街へ来ていたが、ある情報を得て南に行くことになった。


長旅で、やっと街に着き、少しはゆっくり出来ると思っていた矢先の事だったので、部下達の機嫌はあまり思わしくなかったが、これも任務なので仕方がない。


そして10日程かかって、ようやく街に辿り着いた。


ここはインタラス国の北東に位置する街、イルナミと言う街。


アクシタス国から馬で山を越えてこの街にやって来たが、ここに来るまでの道のりが長かった事、山道はあまり整備がいき届いてない所があった事、頻繁に魔物に出くわし、行く手を遮られ思うように進めなかった事等から、部下達は疲れもピークに達していて、機嫌もすこぶる悪かった。


情報収集する為に寄った街だが、とにかく体の疲れを癒さないと、部下達の機嫌は更に悪くなる。


この街一番の宿を聞き、『クラウンヒル』という宿屋で泊まることにした。


しかし、一番の宿屋とは言え、所詮は田舎街の宿屋。

帝国にあるような、貴族が使う宿屋とはランクが違う。

それは仕方のない事だが、部下達のイライラはなかなか納まらず、受付で口々に文句を言っていた。


彼らがイライラする理由も分かるので、それを制する事もしなかったが、受付の娘には悪いことをした、と思っていた。


不意に横を見ると、美しい若者が目に入る。


これ程に美しい容姿の人間がいるのか?と思える位、彼は綺麗だった。

気づくと文句を言っていた部下達も、彼に見惚れていた様で、何も言えずにただ黙って彼を見ていた。


彼が去った後、皆、ハッとして、言っていた文句も忘れ、それからは素直に部屋まで進んだ。

受付の娘も、ホッとした顔をしていた。

本当に申し訳なく感じていた。


少し遅い時間だったが、酒場にでも行って情報を探ろう。


そう考え、あまり堅苦しい格好だと気も抜いて貰えないだろうと、着替えて軽装になった。


部屋を出て外に出ようとしたとき、


「一人で夜遅くに出掛けるのは物騒ですよ。

アンネローゼ様。」


と、後ろから声をかけられる。


振り向くと、部下の1人、マティアスがそこにいた。


「私も一緒に行かせて頂きますよ。」


「マティアス、貴方も疲れているでしょう?ゆっくり休んでいて下さい。」


「それはアンネローゼ様も一緒でしょう。それに、美しい女性一人で行かせるのは男が廃ります。どうぞ、お供させて下さい。」


マティアスがそう言って、胸に手を当て頭を下げる。


「そうですか……では、お願いします。」


「はい。姫様。」


「姫様はやめてと言っています。街では、アンネと呼んで下さい。」


「かしこまりました。アンネ。」


マティアスはふふっと笑う。


「敬語も無しで良いです!」



そうして2人で夜の街へと赴いたのだった。

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