第40話 何事もなく
大きな樹木に、手袋を外した右手を添わせて語りかける。
この木は、永年この地でこの街を見守ってきた、心優しいトネリコの木だ。
光魔法でレクスを優しく包み込み、トネリコの木に託す。
淡く白い光が輝き、木とレクスが光に包まれていく。
光がゆっくりと消えていくと、そこにレクスの姿は無かった。
溢れ出る涙も拭かず、その場からそっと離れる。
トネリコの木が風に吹かれてサワサワと優しい音をたてる。
フッと暖かな風が私の身をまとわりつくように通りすぎていった。
イルナミの街を覆っていた淡い緑の光が少しずつ消えていくと、徐々に気を失った人達が目覚めていった。
目覚めた人達は、この数日の事が分からず、なぜここにいるのかが思い出せないでいた。
街を見渡すと、老朽化した建物や、舗装された道等全てが、なぜか美しく元通りになっていた。
体を患っていた者は元気に、怪我をした者はすっかり治っていた。
あの農家の娘ジュリも、足が動くようになっていた。
冒険で腕を失った者も、気づくと腕がそこにはあった。
何がおこったのか、誰も分からず不思議な現象として、後に語り継がれる事になる。
孤児院も建てたばかりの頃の様に、キレイな建物になっていた。
その場で目を覚ました人達も騎士達も、訳が分からず皆その場から去って行った。
子供達とシスターは、いなくなったレクスを何度も探したが、それからレクスの姿を見ることはなかった。
そして ただ穏やかに
何事もなかったように、いつものイルナミの街へと戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます