第19話 聖女

5歳の女の子 エミー。


金色の髪で2つにおさげにした、目がクリっとした可愛い子だ。



7歳の男の子 フェル。


赤茶色の短髪の少年。

目が鋭く活動的なのか、あちこち擦り傷がある。



8歳の男の子 ルーシェ。


金色の髪で、タレ目の大人しそうな少年。

エミーと兄弟だそうだ。



10歳の女の子 マーニ。


黒っぽい茶色の髪をポニーテールにした、賢そうな顔立ちの女の子だ。



因みにレクスは明るい茶髪の、面倒見が良いお兄ちゃんって感じの男の子だ。



皆を紹介してもらって、部屋へと案内される。


持っていた食料をテーブルに置くと、レクスが奥の部屋へ消えた。


子供達は食料に目を輝かせながら、お皿やフォークを持ってきて、夜ご飯の準備を始めた。


レクスが戻ってきて


「アッシュ、シスターの部屋に来てくれるか?」


と言って来たので、レクスと一緒にシスターの部屋へ向かう。


レクスがノックをしてから、


「シスター!連れてきたぞ!」


と言って返事も待たずに扉を開けて部屋へ入った。


「レクス。いつも返事を待ってから入室しなさいと伝えているでしょう?」


と、ベッドに横たわっていたシスターが体を起こしながらレクスをたしなめた。


「ごめんよ、シスター。この兄ちゃんが昨日の晩飯と大銀貨をくれた兄ちゃんだ!」


そう言って私を紹介する。


「アシュレイと申します。」


そう言って頭を下げる。


「頭を下げるのはこちらの方ですわ。食事と、寄付まで頂いて、本当に感謝致します。」


そう言って、頭を下げる。


「私はこの孤児院のシスターをしております、カエラと申します。ベッドから出ずに申し訳ありません。」


「いえ、それは気にしないで下さい。それから、昨日渡したのはレクスへの報酬です。お礼を言われる事ではありませんよ。」


「いえ、レクスから話は聞いております。レクスがもたらした情報よりも多額の報酬です。お礼を言わなくては申し訳がたちません。」


「レクスの情報は、私にはとても価値のあるものでした。大銀貨1枚では足りない位ですよ。」


そう言って私が微笑むと、シスターも微笑んで


「そう言って頂けると、少し気持ちが軽くなりました。そして今日も子供達の為に食料を持ってきて下さったとか。本当に・・・。」


言いながら頭を再び下げようとするシスターに


「何度もお礼を受けると、こちらの方が申し訳なく思ってしまう。気持ちは受け取ったので、もう大丈夫ですよ。」


そう言うと、シスターも納得したように顔を上げて微笑んだ。

しかし、顔色はすぐれない。

痩せて目の下にクマがあり、唇もカサついていた。


レクスが


「俺も晩飯の準備してくるよ!」


そう言って、部屋から出ていった。



「体を患って長いんですか?」


「半年程です。何が原因か分からなくて……医者に診て頂くにも、恥ずかしい事ですがお金が無くて……私が働けないので、子供達に満足に食事もとらせてあげる事ができなくなりまして……」


「貴女は教会のシスターでは?回復魔法を使える知り合いはいないのですか?」


「回復魔法を使えるのは、聖女と呼ばれる方しかいません。聖女になれる方は少なく、こんな田舎の街に来ることは、ありえません。聖女と認定されれば王都や帝国等、国の主力となる場所に強制的に連れていかれます。そして、王や貴族と言った者にしかその魔法を使うことは許されません。私達教会の者は、疲労を取る回復薬や傷薬を作り出す魔法を使える程度です。それでも、魔力を多く使うので、今の私には作り出す事が出来ないのですが……」


そう言って、申し訳なさそうにうつむく。


「そうでしたか……」


「回復魔法をご存知なのが珍しい位です。稀少な魔法なので、知らない方が殆どです。何故かその魔法は女性にしか使えないので、聖女と言う扱いになるんです。」



回復魔法とはそんな位置にあるのか。

私もまだ分かっていない事が多いな。



要はこう言うことだ。



回復魔法を使えるのが周りに分かると村や街で騒ぎになる。


こぞって病気や怪我を治して欲しい人達が集まりだし、パニック状態になる。


噂はすぐに流れ、情報を得た者は上司に、上司は領主に、領主は王にと、すぐに報告しなければならない。


そうやって見つけた回復魔法を使う者を、王の命令だと強制的に連れていき、回復魔法にあやかった者達には箝口令をひく。


もし言ってしまえばすぐに死罪となる為、誰もが口をつぐむ。


だから回復魔法の事を知る者が少ない。


そうやって情報を外部に漏らさない様にするのだ。


どのレベルの聖女を国が抱えているかで、戦力にも大きく作用する。


戦力は国力にもなるのだ。


この事から、一人でも多く聖女を手元に置きたい国は、回復魔法を使える者の情報にはかなり敏感になる。


ただ、一つの国が抱えている聖女は多くて2人。


1人もいない国もある。


そして、聖女にも能力の違いがあり、数人を軽く回復させるだけしか出来ない者もいれば、瀕死の状態を治せる者、広く浅く魔法を使える者、狭く深くしか魔法を使えない者等、能力差は様々だ。


それでも聖女となる能力を持つ者は稀少なので、神の様に崇められるのだ。









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