第6話 少年レクス3

「緑だ」


「え?みどり?」


「そう、緑。」


「ん?なにそれ?」


「淡い、濃くない色の緑だ。

この街で、その色が思い付く場所やモノはないか?」


「えぇー?!何それ!全然分かんねーぞ!」


「そうか。」


「え、どう言う事なんだ?」


「いや、分からなければ良いんだ。

あるモノを探してるんだが、そのモノがある所には、淡い緑の物が印象としてあるらしい。」


「それがこの街にあるって事?」


「ここにあるのかどうかはまだ分からないが、この街か、街の近くにはあるだろう。街の周辺でも構わないが、淡い緑と言って思い付く場所はないか?」


「んー?……あっ!」



何かを思い出したようにレクスは手を叩いた。



「聞いた話なんだけどさ、この街を出て西に行くと洞窟のダンジョンがあるんだ。ここにいる冒険者達は、そこで魔物を倒したり鉱物を採取したりたまにお宝を見つけたりして、生計を経ててる場合が多いんだけど、飯をおごってくれたヤツがさ、酔っぱらって言ってたんだ。」


「なんて言ってたんだ?」


「ある程度攻略されているダンジョンだから、地下深く行かないと分からない場所はないみたいなんだけど、地下3階で地図もあって、しっかりと攻略されている所なんだけど、何故か知らない場所があったらしくてさ。」


「その場所はどんな所なんだ?」


「そこは行き止まりだから、そいつはそこで休憩しようと思っていたらしくて、疲れた体でそこに向かっていたそうなんだけど、行き止まりの横に細い道があったって。で、気になって行ってみたら、少しひらけた所に出たそうなんだけど、奥の壁が淡く緑に光っていたらしいんだ。」


「光っていたのか……」


「で、そいつはその壁を見て触って叩いて、色々試したそうなんだけど、結局何もなくて、よく分からないから引き返したって。元のいつもの行き止まりの場所まで戻ってきて振り返ると、その細道は無くなっていたそうだよ。」


「なるほどね……」


「その話を聞いた他の冒険者の奴らは、全く信じないでバカにしたり、酔った勢いでウソついたとか言って笑っていたけど、ヤツはウソじゃない、本当の事だって怒ってたよ。まぁ、どうだか分からない話なんだけど、淡い緑で思いついたのはそれくらいかな。」


「そうか。その冒険者とは連絡はとれるか?」


「この話を信じるのか?」


「本当かどうかは分からないが、何も情報がないよりは良いしね。彼にもっと詳しく話しを聞きたい。」


「よくここに来て飲んでるみたいだから、運が良ければ今日会えるぞ。」


「じゃあ、ここでしばらく待つことにするよ。

その冒険者の名前は何て言う?」




「クオーツって名前だぞ!」


「分かった。ありがとう。」


「そっか、俺が役にたったんなら良かったよ!

あ、ちょっとトイレに行ってくる!」



そう言ってレクスは席をはずした。



おかみを呼んで、料理を頼む。



暫くしてレクスが帰ってきた。



それからレクスは、この街の事を色々教えてくれた。


装備を買うならこの店が良いとか、あそこの雑貨店はまがい物が多いから行かない方が良いとか、風見鶏の店の店員が可愛い子だとか。


レクスがほぼ一人で喋っていた感じだったが、私はとても楽しく思った。



人と接するのは、悪いことばかりではないのだな。


ほんのひとときでも、楽しく語らう事はとても大切な事なんだろうな。


心にできた少しの幸せを噛みしめて、レクスの話しに相づちを打った。



「じゃあ、俺そろそろ……」



と言ってレクスが席を立とうとしたときに、おかみが袋を持ってきた。



「はい、持ち帰り分、お待たせ!」



と言ってテーブルにドンと大きめの袋を置いた。


なんだろうって顔で見ているレクスに私は


「それを家にいる子達に。」


と言って差し出した。


「え、何で?!俺、何も言ってないよな?

何で知ってんの?!」


「昼頃に孤児院の前を通ったんだ。そこでレクスと子供達を見かけてね。」


「あ、そうなんだ……じゃあ、ありがたく貰っておくぞ!」


「それと、情報料だ。」


そう言って大銀貨を1枚差し出した。


これで数人の子供なら、1ヶ月は食べられるだろう。


「え!金もくれんのか?!良いのか?」


「あぁ。色々教えて貰ったからね。」


「ありがとう!こんな大金、なかなか手に出来ないよ!」


そう言ってレクスは嬉しそうに頭を何度か下げながら、大事そうに袋を持って店を足早に出ていった。


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