第28話 互いの存在と恋愛感情

 立花と司は、遥香のあの一言が引っかかっていた……


『あんたたち、いつになったら付き合うの?』


 よく考えると、至極当然の疑問のこの問いに、二人は答えが出せずにいた……

 確かに、おなかの痛みが理性を刺激し、エッチな気分になってしまった立花は、司の上に覆いかぶさったりもしていた。

 そして、立花のパジャマ姿に対して、司は興味がないと言えばうそになる。


『立花さんのこと……好き?』


 そんなことを考えながら、立花を見ていた司。それと同じように、目で追いかけ始める立花。そんなやり取りを見た周囲からは、いよいよかという雰囲気が上がっていた……


「ねぇねぇ。立花?」

「ん? なに? 遥香……」

「司くんから見つめられてるらしいけど……いよいよ?」

「はっ?! い、いや……ま、まぁ……」

「えっ? なに、その反応……」


 司からの視線には気が付いていた立花だったが、どんな顔をしていいのかわからなかった……


「でも……」

「その顔を司くんに見せたいわ。ふふっ。」

「えっ?!」


 この時に遥香が見ていたのは、司のことを考え口角が上がり瞳孔が開き、うっとりと頬を染める立花の姿だった。


『立花。それが“恋”だって……』

『まったく、世話が焼けるわ……』


 そんな遥香は、司のことも少しだけ気になっていた……

 というのも、司本人も悩んでいる様子だった。


『あんたが、ハッキリしないから!!』


 とは思っていたものの、ここで遥香が直接やってしまっては、かえって立花が意識してしまう……


「あっ。そうだ……」


 その頃の司はというと、学校に来ていた母親の弥生にいじられていた……


「ちょっと、いつ立花ちゃんを連れてくるのよ……」

「つ、連れてくる?」

「えっ? 付き合ってるんでしょ?」

「ぶっ!! ど、どうして……」


 司の母、弥生は学園の保育のヘルプ要員として呼ばれていたこともあり、息子の司に準備を手伝わせていた。


「い、いや。立花さんは、立花さんだし……」

「はぁ? あんた、まだそんなこと言ってんの? はぁ~」

「なんだよ、そのため息は……」


 弥生は司からの話を聞き、親として息子の背中をチョンと押し、サポートするつもりだった。だったのだが……


『うちの子が、こんなに優柔不断だったとは……はぁ……』

『まったく……誰に。あっ、そういえば。もう一人いたなぁ~。優柔不断な奴……』


 弥生はあきれつつも、旦那。まことのことを思い出していた。まことは、いざ告白となっても、ちっとも告白してこようとはしなかった。それに……


『あいつも……ハッキリ言わなかったなぁ……』

『あぁっ! 思い出したら、イラついてきた……』


 本来なら、司にけじめをつけさせるためだったが、まことのことを思い出してしまったことで、我を忘れかけていた……


『おっと、今は……』


 弥生が司の様子を見ていると、いまだもじもじとした表情をしていた。こういう場合の方法としては、ある程度放置して助け舟を出すか、思い切った荒療治をするかの二通りになる。

 弥生が選んだのは、前者の方だった……


「はぁ。司、ちょっといい?」

「な、なんだよ。母さん……」

「立花さんのこと、どう思ってるの?」

「ど、どうって……かわいいと思ってるけど……」

「それだけ?」

「それだけって、それ以外なにが……」


 自分の息子でありながらこの鈍さというのは、家系というかさすが親子という形に、弥生はあきれていた……


『あぁ、もうなんだろうなぁ。この感じは……。血は争えないかぁ……』

『仕方ない!』


 弥生は、今までに思っていたことをすべて司に伝えることにした。それは、“賭け”に近かったが、返答を聞いている分には成功する確率の方が高いように感じた。そして……


「今度、家に連れてきな!」

「連れてくるって、誰を……まさか!」

「そのまさかよ! 立花ちゃんを連れてきな。そして、気持ちを打ち明けるのよ!」

「えぇぇぇぇっ!!!!」


 結果的に、荒療治になってしまった弥生の想いは、無事に司に踏ん切りをつけさせるのには良い方に働いた。

 その効果は、早くも現れたようで、教室でのこと……


「立花さん……これ……」

「えっ?」


 口頭で言うのが恥ずかしかった司は、女の子同士がよくやる手紙のやり取りで、想いを伝えていた……


『な、なんだろう……司くんは、こういうのやらないと思って……』

「なぁっ?!」


 授業中にもかかわらず、司から渡された手紙に、驚いて声をあげてしまった立花。当然、周囲の生徒が驚き、一斉に立花の方を注目する。

 それは、遥香とて同じでいくら驚いたとしても、そこまで突飛な声を出さない立花が出したものだから、必然的に“司”のことだと悟ったのだった……


『い、家に来て。ってどういうことよ!!』


 思いのたけをなぶり書きした立花は、司に返す。すると、すぐにその返事が返ってきた。ただ、誤算だったのが、渡し方だった……

 ただ渡せば良いものの、司は何を思ったのか気づかせるために、立花の背筋をなでたのだった。

 ただでさえ、敏感な体質の立花の背筋をなでようものなら、当然の反応をする……


「んんぁっ!!!!」

「はっ!!」


 慌てて口を押えた立花だったが、時すでに遅し。艶っぽい立花の声は、授業中のシーンとした教室内に響き渡ったのだった。そして、先生が一言……


「そこの二人。いちゃつくのは勝手ですが、できれば休み時間にね」

「ははは!!!!」


 先生のその一言で、場が一気に和んだのだった……

 そして、授業の終了後……


スパーン!!


「つ、司くん!!」

「い、いや、ごめんって。そういうつもりじゃなくて……」


 どこからか取り出したスリッパで、司の頭をフルスイングしていた立花だった。必死に謝る姿は、見方を変えれば、夫婦にしか見えなかった……


「なに、痴話げんか?」

「ち、ちわ……」

「いや、実は……」


 興味津々の表情を隠しながらも、寄ってきた遥香に事情を説明した司。説明を受けた遥香は、少し考えた後……


「行けばいいじゃん。立花。」

「はぁ? な、なんで……」

「なんでって、勉強会?」

「なんでそこ、疑問符なのよ……もう。」


 立花に説明した後、遥香は立花の横に移動すると、口添えをしていた。


『立花だって、司くんとこのままでいいの?』

『そ、それは……』

『でしょ? それに、あたしも一緒に行ってあげるから……』

『遥香……』

『(ウソだけど……)』

『ん? 何か言った?』

『いや、何でもないよ。』


 ごにょごにょと、二人が話している姿を不安そうに眺めている司に、遥香はうれしい報告をする。


「司くん。その答え。おっけーだから。」

「そ、そう。よかった……」


 半ば荒療治な形になった立花が司の家に来る状況。これで、二人の間柄が進展するのか……

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