第19話 抱き枕と間違いはお約束?

『う~ん。暑い……。夏でもないのに……』

 立花の家に泊まることになった司は、立花の部屋に用意された布団で眠りについていた……

 泊るる理由の一つになった突然の大雨。夏も終わり長雨の時期に入っていたこともあり、そこまで暑くなる理由が司には見当がつかなかった。それに……


『ん? ぬいぐるみでもあるのか?』


 司の寝ている部屋というのは、立花の部屋でもある。ぬいぐるみのひとつやふたつあってもいい。しかし、そんなに自分の近くに置くわけがなかった……


『そ、それに……うご、けない?』


 司は、寝がえりをうとうにも金縛りにでもあっているかのように、身動き一つとれなかった。しかし、ただ顔だけを動かすことができていた……

 司は、霊感とかそういう属性があるという訳ではなかったが、意外と信じやすい性格だったりもする。ただ、これまで霊体験などのようなこともなかったこともあり、気の所為だろうと思うことが多かった……


『こ、これが、金縛り?』


 かろうじて動かすことのできていた頭。ゆっくりと、目を開けるとそこには……


「んん……」

『えぇっ! 立花さん!?』


 司の感じていた金縛りは、霊的なものでも何でもない、立花が司を抱き枕にしていたことだった……

 立花が抱き枕を使用していたのはわかっていたが、当の抱き枕はというと、ベッドの上で寂しそうに鎮座していた……


『立花さん! あなたの抱き枕はベッドの上だよ。』


 司を抱き枕にしている立花は、すやすやと寝息を立てて全く起きる様子がなかった……

 少しでもこの状況をどうにかしようと司がもがくが、ガッチリしがみつかれていることもあり、身動きが取れなかった。それに……


『いろいろと、まずい!』


 薄着のパジャマの状態の立花は、ボタンが外れ肌があらわになっていた。


『な、なんで、その下着なんだよ!』


 よりにもよって、立花の使っていた下着は、司も知っている“あの”下着だった……

 しかも、立花は足を絡めているということもあり、司の大事なポイントを太ももで刺激してくる……


『ん! んっ。』


 すやすやと寝息を立て、全くと言っていいほど、起きる様子のない立花。

 その間も、微妙に動く立花の足は、着実に司の大事な部分を刺激していく……


『り、立花さん。あ、足……』

『そ、それ以上、動かしたら……』


 そして、司に対して、都合の悪いものは続く……


がちゃっ!


「ただいまぁ~、ってまだ寝てるかなぁ?」


 玄関を入ってくる聞きなれたその声は、次第に立花の部屋へと足が近づいているのが扉越しに伝わってくる……

 立花にしがみつかれ、今の状態のまま立花の母親に目撃されようものなら、いろいろとまずいことになる……

 出入り禁止もおかしくはない……


『ど、どうする。立花さんを起こす?』


 絶妙に絡み合っている司と立花は、上体を起こした司の胸に頭を乗せてすやすやと眠りに落ちている。

 どうにかして、この状況を打破しようともがく間も、足音が一歩。また一歩と着実に近づいてきていた……


『いろいろと、まずい……』


 その、一歩一歩近づいてくる足音に、司は何とか、今の現状を改善しようともがく。

 しかし、司のそのすべての行動が裏目に出る。

 体をよじらせれば、立花はにがしまいと足を絡め、少しの隙間を見つけ脱出するキッカケを作ろうとすると追い打ちをかけるように絡みついてくる。

 そんなやり取りが、続いていた……


『足音が、もうすぐそこに……』


 ゆっくりとしっかりと近づいていることが分かるその足音は、立花の部屋の前で足音も止まる。

 立花の部屋のノブがゆっくりと回転し、扉が開き始める。


『これ……終わった……』


 司がそんなことを考えている時間が、数分や永遠に感じるよう時の中。扉を開けて入ってきた人が意外な言葉を口走る……


「立花ちゃん……起きて……あら、まぁ……。お楽しみだったかしら……」

「えっ! あ、彩花さん!?」

『って、お楽しみってなんだ』


 あれほど動いても起きなかった立花が、司の子の一声で起き始めた……


「んん~」

「あっ。」


『…………』


 ふたりの間に微妙な空気が流れた後……


「きゃぁぁぁぁぁぁ!」


ドン!


 火事場の馬鹿力とは、窮地に陥った時に、とっさに必要以上の力を発揮するもの。

 いっきに我に返った立花はそのけたたましい声と同時に突き出される両手と、綺麗にボディーにヒットした司の体が宙を舞い、立花のベッドに飛ぶ姿は滑稽だった……


『ぐはっ!』

「あらあら……」

「ど、どうして! 同じベッドに寝て……あれっ?」

「あなた、また。寝ぼけて……」

「ほえっ?」


 それから、リビングルームに移動した、立花と母親の彩花。そして、起き立て早々に腰にダメージを負った司が集合した。

 そこでは、親子二人で司に頭を下げるという珍妙な光景が、朝から繰り広げられていた……


「ごめんなさい!!!!」

「あ、あの。もう、いいんで……」

「そんな、私の不注意だったのに……」

「ごめんなさいね。司くん。うちの子にちょっかいだしたばっかりに……」

「どうして、彩花さんまで謝るんですか」

「じ、実はね。私が茶化しちゃったのよ……」

「えっ?」


 彩花さんはすべてを話してくれた。

 立花がシャワー後の姿を見せたり、司の入浴中に水着を着た立花が入ってきて背中を洗ったことも、全てが彩花の差し金だった。ただ……


「私は、添い寝までしなさい。とは、いってないんだけどね……」


じー


 ニヤニヤとした彩花の視線が立花を襲う……


「いや、それは。私が、間違っちゃっただけで……」

「えっ?」

「司さん。ごめんなさいね?」

「どういうことですか?」

「この子。同じ部屋に誰かほかの人が寝ると、ほぼ確定でそっちの方に寝るのよ」

「えっ?」

「うちの子。抱き枕、使ってるでしょ?」

「つ、使ってましたね。でも、それが?」

「やっぱり、人肌恋しくなるんだろうね。一緒に寝てると、その人を抱き枕にするのよ……」

「えっ……」


 彩花の説明によると、子供の頃からそうだったようで、兄弟・姉妹もいなかったこともあり、寂しがりの幼少期を過ごした立花は自然と抱き枕を愛用するようになった。

 それは、学園に入ってもからも同様だった。ただ、遥香が泊まった時は別だったらしく……


「遥香ちゃんが泊まった時は、大丈夫だったんだけどね。あっ。あの子、おおきいからかも?」

「…………」

「いやぁ……」


 彩花の言葉にどう反応していいのかわからない司だった。


「まぁ。とにかく……」


 彩花は立花の耳元でひそひそ話をはじめ……


『司くんの抱き心地はどうだったの? よかった?』

『っっっっ?!』

「おかぁさん! なに、いってるの! もう!」

「ん? どうかした?」

「へっ? つ、司くんには、関係ないからね……」


 ムキになった立花は彩花の後ろを追いかける姿が数分過ぎたのだった……

 彩花を追いかけながらも立花は……


『ま、まぁ。よ、よかったけどさ……』

『って、何を思いだしてるのよ! 私は!』


 立花の家のリビングでは、親子のほほえましい追いかけっこを眺める司という構図が続くのだった……

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