第18話 抱き枕と添い寝は別?

『どうしてこうなった?!』


 それは、来客用の布団で寝る司が、妙にやわらかい感触と甘い匂いに目が覚めたときの第一声の感想だった……


 ことは、パジャマ姿の立花を目撃したところへさかのぼる……

 ピンク色のかわいらしいパジャマに身を包んだ立花を見た司は、そのかわいさに見とれていた……

「こういう時は、何か言うんじゃないの?」

「えっ、あ、あぁ。に、似合ってるよ……」

「あ、ありがと」

 風呂上りの熱気とシャンプーの香り。そして、上気した頬から、胸元に向かって流れる雫は、それだけで魅力満点だった。

 立花も、司の視線に動揺しているらしく目が泳ぎまくっていた……

 そして、しばらくの沈黙の後……

「お、お風呂……。お風呂入ってきたら?」

「えっ?」

「ほら、布団とか、用意しなきゃだし。その間に入ってきて……」

「えっ、い、いいの?」

「いいに決まってるでしょ。」

「そ、それなら……」

 浮足立つように立ち上がった司は、浴室へと向かって足を進める。ユニットバスタイプの浴室は、コンパクトにまとめられている。脱衣所で、服を脱いだ司は、浴室へと足を進めると、ほのかに立花のシャンプーの匂いが漂っていた……


『数分前……ここには、立花さんが……』

 そんなことを思わず考えてしまう司。思春期男子なのだから、当然といえばそれまでだが頭の中では色々と想像してしまう……

 一糸まとわぬ姿でシャンプーをしているシーンや、湯船に体を沈めているところなどを想像してしまう……

「いやいや、考えてないで、頭を洗わないと……」

ザァーーーー

 自分の煩悩も一緒に洗い流す勢いで出したシャワーは、司の頭を濡らしていく。そして、そばにあるシャンプーを使い頭を洗う……

『……立花さんの匂いがする……』

 匂いだけで、あたかも立花がそばにいるような感覚に襲われる司、そんなことを考えていると……


がちゃ!


『だ、誰か入ってきた?!』


 脱衣所に扉を開けて入ってくる足音が聞こえる。誰だろうと考える司だったが、よくよく考えると、あの人しか考えられなかった。

『えっ! 立花さんが入ってきた?!』

 それだけでも衝撃だったが、さらに衝撃は続き……

「あ、あの……。司くん?」

「は、はい。」

 頭を洗っている状態の司は、目を開けることができないということもあり、声だけで立花がそこにいることを認識していた。

「えっと、着替えをここに置いておくね。」

「は、はい。ありがとうございます。」

 そのあと、何かゴソゴソとした後、まさかの展開が司を待ち受けていた……


ガチャ!


 それは、浴室の扉を開ける音。

 明らかに、浴室の扉を開けたことで、浴室の熱気が外に出るのと同時に脱衣所の冷気が入れ替えに入ってきた。

 冷っとする感覚と同時に、後ろに立つ音は、ある意味ではホラーである。そして……

「あ、あの。司くん?」

 先ほどよりも、はっきりと聞こえる立花の声。明らかに浴室に一緒に入っていることが分かる距離から発せられたその声は、司の耳で確かにとらえた。

「えっ! 立花さん?!」

「せ、背中。ながします。」

 たどたどしい声で発せられたその声と同時に、一歩ずつ近寄ってくるのが分かる。

「あ、あの。自分で洗えるので……」

 突然のこの状況。司の男としての大事な部分も、しっかりと反応していた……

 そして、そんなことを立花に知られようものなら、男としていろんなものを失ってしまう気がする司。

「だ、大丈夫です。すぐに終わるので、そのままで……」

 司の後ろにしゃがんだ立花は、そっと司の背中に触れる……

「あひゃっ!」

「あっ! ごめんなさい……」

「いえ。大丈夫です。びっくりしただけなので……」

 慌ててフォローをするが、事態はそう簡単ではなかった。

 立花が同じ浴室に入ったことや、背中に触れたことで、色々と前かがみにならざるを得なかった。

 そんな男子の生理現象を全く知らない立花は、母親の教えの通りに、司に対して尽くすことを年頭において行動していた……

「あ、あの、服を着てるので頭をあげても大丈夫ですよ……」

「いや、そういう問題でも……」

「いいですから、頭をあげてください。じゃぁ、洗いますね。」

 ほぼ、強引に始まった立花の奉仕は、小さな手をしっかりと使い司の背中を洗っていた。

 しかし、どう間違ったか、泡が多かった。そして、やっぱり……


つるっ!


あっ!


ぽにょん!


「あひゃっ!」

 手を滑らせた立花は、司の背中に抱き着く形になっていた。当然、来ていた服は水分を吸い、体に張り付く。

 それと同時に、支えを失った立花は、どこに手をついていいのかわからずに両手をばたつかせる。

 それが、妙に司の前を撫でる形になり、いや応なしに男としての理性を激してくる。そして、比例するようにシンボルがさらに元気になっていく……

『いやいや! まずいって! このままだと……』

 立花が支えを探すその手は、何度となくニアミスを繰り返し、支えを得たころには、ギリギリ事なきを経ていた。

「ご、ごめんなさい。滑っちゃって……」

「い、いえ。」

「あぁ。濡れちゃった……。脱ぎますね……」

「えっ!」

 『脱ぐ』というその言葉に、敏感に反応した、司は思わす振り返ってしまった。そこには……


「ん~。えっ!」

「あっ、ごめん!」

 半脱ぎの状態の立花の姿と、しっかりと小さな布地が見えていた……

 条件反射的に前を向きなおす司。そして、後ろから聞こえてくるのは、沈黙と呼吸の息遣いだけ……そして。

「み、見ました?」

「み、見えました……」

 真っ赤になりながらも、正直に司は伝えた。下着の一件と言い、これで終わったと思った司だったが……

「もう、水着を着ててよかったですよ……」

「えっ?」

「だから、これ。水着なんです」

 司が見てしまったものは、水着で下着と同じような面積ではあるものの、見えていいものだった。

 一安心した司は、立花にシャワーを渡すと、背中をしっかりとながしてくれた。

「これで、オッケーです。それじゃぁ。先に行ってますね。」

「う、うん。」

 そうして、司のドギマギを他所に立花はスタスタと、部屋へと戻っていった。しかし、当の司はというと、湯船に入りしばらく物思いにふけってしまった……


『すっかり長湯をしてしまった……』

 立花のようしたパジャマに身を包んだ司は、部屋へと足を進めていた……

『こ、これから部屋で寝るんだよなぁ~』

 そう考えると、先ほどの事が何度となくよみがえってくる。

 そんな妄想を振り払うかのように、部屋へと戻ると、立花は疲れているのか、すでにベッドで横になって寝息を立てていた……

「浴室に入ってきたときは、どうなるかと思ったけど……」

「こっちに寝ればいいんだな……」

 立花の抱き枕にしがみつく姿は、かわいらしくも見えた。

 いろんなことがあった立花の家での勉強会は、こうして幕を閉じていくことに……ならなかった……


ドサッ!!


「んんんぅ~眠い……」

 翌日。司は、生暖かい感触と、程よく巻き付かれる形で目を覚ますことになったのだった……

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