深海から助ける魚になりたい。

幸野曇

April

第1話 親切で秀才の美少女なら、一目惚れするのも無理はない

 次は音楽の授業。

 僕ら25人は、音楽室の前で最後の人が出るのを待っている。

 中から聞こえるのは、椅子を少し動かす音だけだ。


「渡辺さん、椅子整頓してる」

「別にしてくれてなくても良いんだけど、授業時間短くなるからよくやったって感じだよね」

 

渡辺さん……?

 それなー、という女子の声を無視して、必死に記憶を漁る。

 渡辺さん……渡辺葵さんのはず。入学してから3日後位に、秀才&美少女って噂していたのを廊下で聞いた事がある。

 僕は、未だに彼女の姿を見た事がない。

 どんな子なんだろうか。



 3分程経っただろうか。音楽の先生らしき人の「渡辺さん、ありがとうね」という声が聞こえた。


「渡辺さん、ありがとう」

 その後、学級委員が見え見えの作り笑いをしてお礼を言っている奥にいる君の姿を見た瞬間。


「……いえ。授業頑張ってください」



 ……胸の鼓動が速くなった。


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