第13話その時も

「あやつはどうだ。」

「長は部下をよく見ておりますよ。たとえ声や姿が同じでも、そして顔が隠れていようとも、部下かそうでないかわかるというのですから。」

 その声は嬉しげだった。

 ということは、知らぬ内に成りすましをされたか、それであやつが暴いたというのがあったのだろう。

 その報告は受けておらぬ。

 片付いて、何のこともなかったのだろうな。

「何故、わかったのだ。」

「聞いてみては?」

「うむ、そうだな。どれ、影忍。出てこぬか。」

 足元の影を突っついてそう声をかければ、今日は上から顔を覗かせた。

 屋根の上に居ったのだな。

「何故、部下でないと気付いた?」

「…気配ですが。あれは知らぬ気配でしたから、部下でないと。」

「ということは、『こやつ』でないと判断したのではないということか。」

「…いえ。たとえ双子であり、部下であってもわかります。僅かながら気配が異なりますから。それがそれであると。」

 当然だと言いたげにそう即答した。

 こやつの言う気配というのが、何を表すのかわからぬ。

「気配とはなんだ。」

「…匂い、音や声、殺気、視線、仕草、口癖、それと判断できる大概の情報です。感じることのできるもの、と言えば簡単でしょう。」

「お主はそれで判断しておったのだな。」

「…後は、触れて感じる情報でしょうか。忍は迂闊に触れられませぬが、会話の違和感、物を手渡す力加減、何かへの反応…様々な情報から伺えます。」

 簡単に述べるが、普通それはできない。

 疑ってかからねば、覚えもできぬ。

「お主が常に疑心暗鬼でおるわけではあるまい。」

「…過去は兎も角、今はただの癖というもの。ご安心を。それが無くともそうでないと知る手段はあります故。」

 静かにそう答え、ようやっと降りてきた。

 癖となるとは、嫌というほどそのようなところで過ごしておったということか。

「して、何処の忍の里から来たのだ?」

「…今はもうありませぬ。」

「よい。何処にあった?」

「…さて、何処に御座いましょうか。」

 答える気はないのだと、意地悪なことを言うた。

 そうか、こやつの伝説は忍殺しだけではない。

 忍の里をも滅ぼすのだ。

 となれば、己の里も滅ぼしておっては不思議はなかろう。

 そんなこと、思い出したくもないのやもしれぬ。

「すまぬ。悪いことを聞いたか。」

「……何故、そのようなことをお聞きになるのですか。草の事なぞ。」

「知りたいからだ。某は忍をそうとは思っておらぬ。同じに思うておる。」

 明らかに、影忍の顔が引き吊った。

 それは直ぐに失せたが、それがこやつの本心か。

「ふむ。お主にとっては有り得ぬ話だろう。しかしな、武雷家ではそうなのだ。よいか、此処に仕えたならば、」

「…では、仕事に戻ります故。」

 話の途中で逃げおった。

 それは聞きたくないのだとばかりに。

「これ、影!逃げるでない!」

 しかし、もう姿を現さぬ。

 それにはそこの忍も笑うた。

「長は主に言われてしまえば逆らえませんからね。逃げるが勝ちというものでしょう。」

「可愛いものだな、あやつは。」

「我らもそう思いまする。たまに、お子の様でしょう?」

「うむ。」

 それには同感だ。

 一緒になって笑う。

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