第6話何はともあれ
戻ってきた霧ノ班は、ほとんどが死にかけていた。
そして、ぼろぼろな状態で影忍も同時に帰還した。
影忍は一人怪我人を背負い、二人死人を抱えておった。
その怪我人は、足を骨折し歩けないので影忍の首に腕を回して、ぶら下がっておるような状態だったが。
怪我人を降ろし、そして抱えておった二人の死体を丁寧に床に置いた。
「影忍…。」
「………無断で、任務へ手出しをし…申し訳、」
その言葉を遮って、霧ノ班の一人が前へ出た。
そして、頭を下げる。
「主!これは、伝説の忍が原因ではなく…、我らの不足により…。伝説の忍の手出しが無ければ我ら全員死んでおりました…。申し訳御座いません。」
溜め息をついて、その肩に手を置く。
誰も、そのような疑いは持っておらぬ。
「わかっておる。ご苦労であった。生きておる者は治療をせよ。影忍、礼を言う。お主があの時、動かなければ誰一人として生きて戻って来られなかったであろう。」
影忍は、ただ黙って顔を伏せていた。
それにしても、我が忍隊がこうも容易に殺されるとは…。
相当だったらしい。
警戒をと、班で動かしたが…。
と、影忍が何かを差し出す。
「それは……巻物ではないか?何処から?」
「………ついでに、と。」
あぁ、援助のついでに彼方から盗んできたのか。
受け取って、巻物を広げる。
内容は、武雷を襲撃する策をつらつらと様々に書いてあるだけだ。
だが、これは重要な巻物だろう。
ついで、で持ってこられる代物ではなかろうに。
他にも、何やら盗ってきたようで、あれやこれやと身から取り出した。
「それは任務の!」
怪我人が声をあげる。
そうだ、任務として盗んでこいと言うた物があったのだ。
「お手柄だ!にしても、ようわかったな?」
「…必要なものとは知らず…手癖の悪いものですから…。」
目を反らして床に置いた。
これは、また、上等な刀であったり。
それは、丁度、同盟を結んでおる炎上家への襲撃の策であったり。
「その刀は…どうしたのだ?」
「……これら巻物と同じ部屋に置かれてありましたから…なんとなく…?」
うむ。
それは…あれだな…。
あやつが大事にしておる愛刀である可能性が大きいな。
というか、愛刀だろうな。
戻してこいとは言えぬ。
まぁ、良かろ。
「取り敢えず、影忍もだが報告書をあげてくれぬか。今は休め。死した者の弔いをせねばな。」
「影忍、お主の名は何という?」
「…ありません。」
この忍は、人前では何一つ感情を見せぬようだ。
独りの時には、あんなに切なげにしておったというのに。
それに、何か答えるようになったはいいが……躊躇するように間を置く。
「そうか。して、先の報告書、ご苦労であったな。」
「…何か、不足がありましたか。」
「不足はあらぬ。ただ、お主の報告書は他と違った。」
ぴくっ、と指が跳ねた。
それ以外の反応はない。
ただ、反応したということは、自覚があってのことだろう。
「なに、悪いという意味ではない。ただ、某だからわかる程度でな。この書き方をするということは、習ったな?」
初めて、こういった会話で目があった。
わかっておる。
この報告書と、他の報告書は明らかに書き方が異なり、一目でわかる。
無駄なく簡潔に不足なく、不確かは述べず気付こうとも確かめるまでは待てと言わんばかりの匂わせ方。
何かがあるが、その何かを知らせずただ警戒するべきだということは、しっかりと伝わった。
上手いのだ。
そして、他の報告書には書かれておったが、こやつの報告書には書かれておらぬ内容があった。
こやつが判断し切り捨てたということだ。
それは、気にすることでもない、或いは主に知らせるべきではない、というつもりの他何があろうか。
「長の素質があるとは、このことも含まれておったもやもしれぬな。お主、そう育てられたのか?」
知らぬはずの内容も、他の報告書より深い報告になっておった。
「…それが、何か。」
目の色が僅に変わった。
ほう、成程。
こやつは、某を試しておるのだな?
「お主は輪丸という者を知っておるな?」
話を変えて、あの事を問い掛ける。
すると、何処に当てるでもない真っ直ぐな殺気が飛んできた。
目が、鋭く冷たく光る。
影を纏い、激しくどす黒い感情を渦巻かせておる。
「………今、何と?」
低い、低い声が地を這うように言うた。
聞こえておらぬわけがない。
「……ッ、すまぬ。何もあらぬ。」
そう答えると、すぅっと全てが収まった。
上から、雀が地面へぼとりと落ちる。
殺気に当てられたのだろうか。
触れてはならぬ名であるのか。
影忍が立ち去って、体の力が抜けた。
尻餅をついて、深呼吸をする。
あれは…、下手をすれば殺されておったやもしれぬな。
たとえ、主であれども。
あれを、野に放すわけにはいかぬ。
絶対に。
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