第24話

「第1中隊、先行せよ。第2、第3、続け。第4中隊は私が直卒する。」


高速飛行に長けた第1中隊を先行させ、最も火力を出せる第4中隊が一斉射撃し道を強引に切り開く。駆け抜ける第1中隊にそれへと続くように第2、第3中隊が撹乱しつつ通り抜ける。


『遺憾ながらこれ以上遅滞戦闘は継続し得ない。』


「気にするな。第2中隊の到着までは耐えてくれ。その後後退して欲しい。」


『理解した。だが、持ち堪えられるかは五分五分だ。』


『ピクシー02。ピクシー大隊が後60で到着する。第1、第2中隊到着前に後退して構わない。』


誰もが祖国の為、背後の家族の為に銃を構える。ピクシー大隊から戦域到着の報告と、第1から第3中隊が合流した事とヴァナディーズ中隊が損耗限界に達し後退しているのが視認できた。


「第4中隊到着、残存部隊の後退成功が残り300。イェーガー大隊は司令部を破壊する。」


『了解、イェーガー01ご武運を。ピクシー大隊我に続け敵大隊を引き剥がす。』


『ヴァイス01より各位、我戦域に到着す。直ちに阻止攻撃に入る。』


『イェーガー02より01、行って下さい。第4中隊ならやれます。』


「理解した。一撃後突破する。中隊各位砲撃だ!」


誘導式入りの長距離対魔導師砲撃術式。中隊全員分が着弾し1個大隊を叩き潰すと急速突破、上空で200キロの炸薬入の擲弾を投下、対地砲撃術式を二連射し離脱した。2個大隊の追撃を交わしつつ圧力の弱まった友軍と部下達が同じく攻撃を加え、反転した俺たちと追撃中の2個大隊を挟撃する。

数秒の魔力光の応酬後1個大隊まで数を減らした敵は離脱を開始し後衛と合流を図るも観測砲撃を食らわせ堕とす。


『HQよりイェーガー戦闘団、防衛線の再編成功敵陸上部隊の侵攻は見られない後退せよ。』


「了解、イェーガー01より各位並びに友軍各機帰還する。」


イェーガー戦闘団はノルマルディアに帰還する。決戦派の影響力も下がり、こちらにある程度優位が認められるはずだ。魔導師部隊のみで先行し帝都に到着後アマーリエ殿下の名を添えて上申書を提出した。

内容はヒンデンブルク閣下の復員とノルマルディアからの上陸阻止の為の兵員要請だ。

ヒンデンブルク上級大将閣下の復員以外は認められた為にヒンデンブルク上級大将閣下をノルマルディア方面司令部参事官として民間人地方司令部に認められた民間人登用制度を用いて任官。あ体制を固めつつあった。



1947年6月6日


『秋の日の ヴィオロンの 溜息の』


「クルーガー少尉ABCラジオの定期放送です。」


ロクソニア旅団の近衛101魔導連隊の司令部にて叩き上げの少尉と西方から従軍する古参兵の当直兵が毎日の放送に耳を傾けていた。


『身に染みて ひたぶるに 裏悲し』


「…来てしまったか。」


「ええ。」


洋上の重巡洋艦の甲板。大佐殿の演説が始まり、誰もが帝国への大陸上陸戦への興奮を高める頃。

突如ABC放送から流暢な合州国・連合王国公用語で放送が開始される。


『ここより入る者汝ら一切の望みを捨てよ。我らが祖国犯せし忌まわしき怨敵共よ心得よ。ここは我らが帝国、我らが大地、我らが空。我ら北方で、西方で、南方でそして東部にて歴戦の無敵の古参兵。

剣林弾雨に遊び常に彼らを導き、彼らの後背を護り、祖国の盾たる無敵の敗残戦友諸君。

西方帰りの古参兵戦友諸君、奴らが成した連合王国兵の骸の山をもって再び教育してやろう。合州国に我らに刃向かう愚を叩き込んでやろう。我ら帝国の防人。先だった戦友の分まで教育してやろう。

地獄へようこそ敵兵諸君。我らが饗宴してやろう』


流暢な言葉に周囲の兵卒は驚き放たれた内容に驚愕を示すが、将校連の表情は青を通り越し土気色であった。ABC放送のジャックではなく公式のABC放送ロンディウム放送局からの放送、つまり彼らはロンディウム中枢を再び占拠したことになる。ただでさえ親帝国派の多いロンディウム。活発なパルチザン活動に余りに隙の多い防空網。優秀な帝国魔導師や降下猟兵なら容易に突破しうるだろう。


「マックス大尉!不味いぞ、先陣は既にノルマルディアに上陸済みだ。罠に嵌められた。奴らノルマルディアが目的な事を初めから知ってやがったんだ」


「パルトン大将閣下が上陸なされたのだろう?帝国軍は欺瞞に踊らされ、パルド・カレーに集結しているのでは無いのか…ならば」


『HQより上陸第二陣!海岸線に誘引された友軍は全滅、事前に投下された空挺部隊との通信も途絶、魔導部隊とも連絡が取れない。更にアイゼントハウワー元帥閣下の消息も不明。…何?ロンディウムに双頭の黒龍が翻ったとの事だ。作戦を中止する。繰り返す作戦中止する。』


「第3軍司令部よりHQ!後背に浸透され後退する地など無い!我らは前進するしかないのだぞ」


同じ戦艦の艦橋に置かれた第3軍司令部から怒鳴り声が聞こえる。

彼らの指揮官はパルトン閣下。救出に向かいたいのだろう。彼らの発言も妥当ではある。


『…5分まて。テルダー副司令官から号令を下す。』


不気味にも沈黙を続けていたABC放送が再び、今度は帝国公用語で語り出す。


『ノルマルディア方面司令部より隷下各部隊。我らは帝国軍人。我らが古参兵戦友諸君、フェイズ3までを完遂。フェイズ4へ移行せよ。我らが祖国は諸君らの奮闘を期待する。』


仮に上陸部隊の誘引、空挺部隊の撃破、ロンディウム急襲、連合国軍総司令部の破壊を3つのフェイズと仮定しよう。

なら次はなんだ?


答えは数十秒後に訪れた。


後世、こう記録されている。

帝国軍特殊長距離偵察用途加速兵装1号

EASLR1による帝国軍最精鋭の魔導猟兵大隊の投射と兵装自体に搭載された炸薬による敵艦艇への攻撃。

それは余りに急速かつ簡単に行われた。


「ルドラ01より大隊各位、HALO降下。」


現在の帝国軍には乏しい北方帰りの古参兵からなる特別攻撃隊ルドラ大隊。ベルン連隊からの選抜中隊を中核に第205中隊などを加えた特別編成。


『ノルマルディア01よりノルマルディア連隊各位我々は後方より展開する。』


残存ベルン連隊とロクソニア旅団やイェーガー戦闘団の選抜魔導猟兵からなるノルマルディア連隊。轟音を起てたEASLR1は戦艦と空母に魔導猟兵の飛行術式を改造し任意誘導による操縦。

いとも容易く、複数の戦艦や空母の艦橋を粉砕し、撃沈。直撃せずとも至近弾で傾く、ヒドラジン燃料採用の特殊兵装。


「ルドラ02、03デカ物を狙え、12、13、14は被害を拡大せよ!」


マリア少佐の指揮の本、大隊全てが個人でネームドたる化け物達が押し寄せ未だ健在の主力艦に取り付く。

2個中隊に追い回され撃滅される海兵魔導師により海岸に近く展開する駆逐艦や軽巡などはサラマンダー・ウンディーネ両大隊と沿岸砲に沈められる。


「08より01、遊撃戦への移行を具申する。」


「01理解した。小隊単位での被害拡大に努めよ。」


『大洋艦隊より各位。攻撃範囲に入った。友軍誤射と航空機の接近に留意せよ』


艦隊の航空機と地上の航空艦隊を統合指揮する大洋艦隊司令部。雷撃機と急降下爆撃機、多数の戦闘機、そして新兵器のジェット戦闘機が一気呵成に進み、制空権を支配する。

更には戦艦戦隊や重巡洋艦が砲撃を開始し榴弾が上陸用舟艇を攻撃する。


『ノルマルディア01よりルドラ大隊。我貴隊を視認す。連隊戦友諸君、行動開始!』


襲撃編隊の1個増強大隊を先頭に2個大隊が連なり、350ktで接近する。我らがクロイス准将閣下の連隊だ。高らかに響く帝国国家に辛うじて離陸した魔導師部隊も直後の無防備な所を落とされる。

ノルマルディア方面防衛戦の趨勢は完全にこちらに傾いていた。


『ノルマルディア01より上陸部隊各級指揮官並びに各艦艦長個別の降伏を勧告する。我々は全てを受け入れる用意がある。』


数分間の停戦命令。敵海兵魔導師は交戦を希望しているようだが、完全に怯えた各級指揮官が降伏を宣言し駆逐艦長などを筆頭に抗戦を主張するも水兵らが反乱を起こし、白旗があがる。


新たに帝国へ希望が齎された。

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