第7話 神の面談(中編)

『これから七月の間、あなたには「ラブコメな世界」に世界を脚色して貰う必要があります。私が直接手出しをしても良いんですけれど、手出しするとそれはそれで管理者に怒られるんですよね……』


 神様のさらに上に、立場が存在しているのか。

 そんなこと聞きたくなかったけれど、神様がぽつりと言ってしまったことなので、聞かざるを得なかった。

 ガラムドの話は続く。


『そういう訳で! 私はアドバイスをするだけになります。それで充分でしょう? それとも、それ以上に何か必要なことがあるなら、お話ししても構いませんけれど?』

「いや、それだけで良い。あとは僕が何とかするよ。……元々、その予定だったのだろう?」

『いやー、分かって貰えれば助かりますよ。……実際問題、最近の若者は私から手を差し伸べても怪しい存在だと思う人間が多数を占めていますからね。まったく、神様を少しは信じなさいって思うんですけれど。神様という名前を変な風に使っている宗教が多いからですかね?』

「……さ、さあ? どうかは分かりませんけれど……」


 そもそも、そんなことを言われたところで分かるはずがない。

 神様の名を騙った怪しい宗教は確かに多そうだけれど……。


『そもそも、神様というのは絶対神でも唯一神でもない訳です。八百万の神様という価値観があるでしょう? どんなものにも神様は存在する。それを位置づけているのが、この日本という国、に繋がる訳ですね』

「……いや、でもこの前あなたこの世界がシミュレーテッド・リアリティだって口にしましたよね……」

『そんなことはどうだって良いのです!』


 いや、良くねえよ。

 そんなこと言われても、困るし。


『……とにかく、私が話したいのは、アドバイスについて、です! 七月までの僅かな間、あなたがやらなくてはならないことは三つあります!』

「三つもあるんですか……」

『そうですよ、三つもあるんですよ。ちゃんと聞いてくださいね』


 メモを取らせる時間を用意してくれないものか。


『あ、メモを取らせる気は毛頭ありませんのでそのつもりで。けれど、毎回私がアドバイスしてあげますからご心配なく!』

「ご心配なく、って。メモを取らせてくれればそれで済む話じゃねえか。それともあれか? あんたが話をしたいからわざわざメモを取らせる気にさせてくれないとか、そういう類いのアレ?」

『……、』


 あれ、もしかして図星?


『そ・ん・な・こ・と・よ・り! 私が言いたいことは、分かりますね? 三つのポイントを如何に攻略していくか。それが鍵になります。あなたが攻略していかないといけないヒロインは二人のうち一人です。重婚はこの世界では、あまり認められていませんからね。いや、認められている国もありますけれど、あなたが住んでいるその国では認められていない、というだけで』

「分かっているよ、それぐらい。僕だって、二人を好きになって二人ともに告白して、二人と一緒に居るなんてこと出来やしないぐらいは」


 だからこそ、どちらかを選ばなくてはならない。

 だからこそ、どちらかに告白しなければならない。

 そうしなければ、この世界が滅んでしまうから。

 だったら――僕がやるしかないのだ。


『納得してくれて助かりますよ。毎回こういうのって信じて疑わない人間を選ぶのが難しいんですよね。お分かりいただけるかと思いますけれど、人間って普通の価値観なら神様なんて非現実的な存在を信じることが珍しいじゃないですか? だから、人間って面倒なんですよね。あー、またこの世界ぶち壊して一からリセットし直したい……』

「おい、何か負の感情がダダ漏れしているぞ、神様とやら」

『げふんげふん!! あー、そんなことを言っている場合じゃないですよね。私が言わなくてはいけないことは、この世界であなたが生き抜くことについて! この世界を、ラブコメな世界にしていくためにどうすれば良いのか、ということについて! 色々と説明していかなくてはならないのですよね。シミュレーテッド・リアリティって話は放っておいてください。はい』

「だったら自分から触れに行くなよ!」

『では、先ず一つ目! 「女の子の好きな物をプレゼントする」ですよ! 生憎あなたは、幼馴染みである彼女達と出会う機会は数多いはず。プライベートでも出会う機会は多いのでは? だったら、そのプライベートで彼女達が好きな物をプレゼントしてあげれば好感度がアップするといったものです!』

「何だかギャルゲーじみてきたな……」

『もともとラブコメな世界なんてギャルゲーみたいなもんですよ! さあさ、私のリサーチによると彼女達の好きな物は……』

「ちょっと待った。彼女達の好きな物を既にリサーチしているのかよ?」

『ええ、何せ神様なので』


 ……それってストーカーか何かじゃないのか?

 そんな突っ込みを入れたかったけれど、それよりも話を聞くべきだろう――そんなことを思うしかないのだった。

 

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