10話目
「こういうのは天光のが向いてんだけどなぁ。」
闇堂は手渡されたされたジュストコールなどに着替え終えると恥ずかしそうに呟く。
「大丈夫ですよ!すっごく似合ってますからキチンと胸を張って下さい。オシャレに一番大切なのは自信ですよ!」
同じく正装に着替え終えたらナディアは元気いっぱいに闇堂を勇気づけようとする。
「それにしてもなんだって俺が王都に。」
闇堂は一言だけ呟くとナディアに言われた通りに自信に溢れた様子で家の前の馬車へと向かう。
ナディアも闇堂の後ろを従者らしく付いていった。
◾️◾️◾️
――時は遡ること三日前。
「少しの間家から離れます。行き先はグワルフさんには伝えてるので何かあったらグワルフさんに言って下さい。」
という手紙を残して天光はリーシャを連れて闇堂の前から姿を消してしまったのだ。
猪狩の依頼を口火に怒涛の勢いで依頼を受け、それをこなし切るだけの実力を見せつけていった二人は今やギルドでも名が知れた存在になっていた。
そんな側から見たら順風満帆な、実際にケンカなども無かった二人組の片方が突然消えたともなれば、噂はすぐに広まり闇堂の元には多くの心配の声が届いていた。
だが闇堂は天光なら変なことはしないだろうという信頼からか、特に探したりはしなかった。
――そして今日の朝
「とはいえ二人だけだとこの家は広すぎるよな〜。」
闇堂は床に大の字に倒れながらナディアに話しかける。
「そうですね〜。どうしますか?私たちも旅にでも出ますか?」
「それいいね。何か依頼でも行こっか。」
闇堂とナディアはそんな話をすると外出の準備を始める。
「ナディアって戦闘とか出来るの?」
「もちろん!ご主人様の居ない間のお家の警備も、ご主人様の外出時の護衛も、全てをこなしてこそのメイドですから。」
ナディアが任せろと言わんばかりに親指を立てるのを見て闇堂は微笑む。
「せっかくだしノリで買った大量の魔道具でも持ってくか。」
そう言うと闇堂は魔道具の山から適当に選んでバックに入れていく。
「天光さんが居なくなって暇だからって散歩ついでに買い物しすぎちゃいましたね〜。」
ナディアはマズイなぁといった顔でその山を見つめる。
「まぁでも楽しかったし、それに何の役にも立たないって訳でもないし大丈夫でしょ。」
そう言うと闇堂は手に持っていた瓶を開け飲み出す。
すると闇堂の指先がヤモリのそれに変化する。
「これとか割りかし便利っしょ。」
そう言うと闇堂は指の先を壁に当てて張り付いて見せる。
「ヤモリごっこもいいですけど準備出来たんですか?」
ナディアが適当に流しつつ聞くと闇堂はすぐに準備に戻る。
――カララッ。
ちょうど二人が外出の準備を終えかけると訪問者を告げる音が門のベルから鳴る。
「誰でしょう。」
ナディアが扉の方へと小走りに走っていき開けると門の前に一人の男が居た。
男は如何にも高貴そうな純白の衣服を纏っており、おおよそ成人になって少しであろうといった見た目であり身体は鍛え抜かれていた。
「王室からの使いのものだ。今日はアンドウ・カズトという男に用があって来たのだが居るか?」
「俺が闇堂ですけど。」
気になって少し様子を見に来るとちょうど名前を呼ばれたので闇堂が名乗り出る。
「そうか、貴殿があの。王が貴殿と一度会ってみたいらしくてな。数日以内に空いてる日はあるか?」
「なんなら今日でも。」
「それは素晴らしいな!ならば今日にでも王都に共に来てもらえるか?」
「俺は大丈夫ですけど代わりにナディアも連れて行っていいですか?」
「勿論。では君達二人の正装を渡さなければな。」
そう言うと男は何も無い空間から二つのバックを取り出すとナディアに手渡す。
「そこに入っている服に着替えて他の準備も出来たら声をかけてくれ。」
そう言うと男は乗ってきたのであろう馬車に乗り込む。
二人も家に戻ると服に着替え始める。
――こうして王都行きの馬車に乗った二人に男が自己紹介を始める。
「私の名前はヒュバート。今の仕事は王の護衛や執事など、平たく言えば王直属の何でも屋だ。」
二人もヒュバートの後に自己紹介をすると闇堂は先から気になっていた疑問をヒュバートに聞く。
「王はどうして俺に興味を?」
「ハハハ。王の頭の中は私の様な一使用人には分かりかねるよ。それに心当たりはあるのだろ?」
ヒュバートの言葉で闇堂は確信する。
「話通り王も俺と同じ出身なんですね。」
「その辺りの話は後でゆっくりとしたらいい。」
それ以降は他愛のない話をする三人。
程なくして馬車は山に差し掛かる。
「王都とアルバチア領って山を挟んでるんですね。」
闇堂が意外そうに言うとヒュバートは地図を闇堂に見せる。
「王都とそれを囲む八の都市の間には大きな山があってね。昔の戦争時にはこの山の麓まで攻め込まれてという話だ。」
闇堂が地図を見ている横でナディアが笑い出す。
「ご主人さまって時々意外なことを知らないですよね。」
「生まれがコッチじゃ無いから仕方ねーんだよ。」
闇堂も笑って答える。
――その後も三人は談笑を続け気づけば山も下りに差し掛かっていた。
「それにしてもこの馬は早いですね。」
「なんと言ってもロイヤルブランド。最高級の馬だからな。血統も餌も全てが違う。」
「俺も欲しいな〜。」
そんな話をしていると突然馬車が止まる。
「なんだ⁈」
三人は咄嗟に飛びだそうとするがそこに火の玉が飛んでくる。
「マズイ!」
ヒュバートはそう叫ぶと二人を安全な方向に投げ飛ばし火の玉に直撃する。
火の玉がヒュバートに当たった瞬間、火の玉が光り爆発しようとする。
が突如として火の玉は光を失い消えていく。
「危ないところだった。もしお前達に傷がついてしまったら大変だった。」
ヒュバートは安心した様にそう言いながら馬を撫でる。
「それにしても、まさかこんな王都の目の前に山賊とはな。」
ヒュバートは頭を射抜かれて死んでしまっている御者を地に下ろし軽く祈りを捧げると茂みを睨みつける。
するとゾロゾロと三人を囲むようにして男たちが出てくる。
「山賊とは酷い言いようだなぁ。同じ釜の飯を食った中だってのによぉ。」
リーダーらしき男が剣に手をかけながらヒュバートに近づいていく。
「騎士としての役目を果たさず、名誉ある死すら拒んで逃げ出した男など私の知り合いにはおらんな。」
ヒュバートもまた、すぐに剣を抜けるように手をかけつつ近づいていく。
「相変わらずムカつく野郎だな。テメェはよ。」
「相変わらず醜いな。貴様は。」
二人は向き合って互いに話すと同時に剣を抜き斬り合う。
互いの一撃は凄まじい衝撃波を放ちながらぶつかり合い大地にヒビが入る。
「山賊に身をやつしても技は錆びてないようだな。」
「お前は王の犬に落ちたせいか鈍ったな。」
二人はその言葉を最後に魔力を全開にし斬り合いを始める。
斬り合いを開始の合図に他の山賊達も闇堂達に飛びかかりだす。
「ナディア。背中は任せるぞ。」
「ご主人さまこそヘマしないで下さいね。」
そう言うと二人もまた魔力を全開にして斬り合いを始める。
――戦いが始まって少しの時間が経った頃。
闇堂は酒呑童子の魔力が完全に閉じているせいか徐々に押され始める。
ナディアもまた徐々に押され出していた。
「コイツら。一人一人がかなり強いのに加えて連携もしっかりしてやがる。マズイな。」
「後何人くらい居るんですかね。これ」
闇堂とナディアは互いに背中をつけた状態になると闇堂が一つの作戦を伝える。
「ナディア。俺から離れて戦線から離脱出来るか?」
「まぁ私一人が逃げるくらいの道を作ることなら。」
「なら俺が右手側の刀を抜いた瞬間に離れてくれ。」
「それご主人さまが囮になるってことですか?」
「似たようなものだが少し違う。大丈夫だ。死にはしない。」
闇堂の確信を持った声を信じナディアはありったけの魔力を次の一撃のためにメリケンサックに込めていく。
闇堂が酒呑童子の残していった刀に手をかけると同時にナディアは全力で大地を殴り目の前の敵を衝撃波で吹き飛ばすと全速力で駆け抜けていく。
「おいおいお仲間に見捨てられちまってんじゃん。」
山賊達が下卑た笑い声とともに闇堂に攻撃を仕掛ける。
その瞬間、刀から闇の魔力が溢れ出してくる。
それは闇堂を包み込んでいきながら闇堂を中心にした円を地面に描いていく。
「なんだコイツは⁈」
山賊達は本能的に溢れ出る闇の持つ危険性を察知すると距離を取りつつ魔術で攻撃を仕掛ける。
がその全てが飲み込まれていく。
「これが鬼の力か。」
闇堂を包み込んでいた闇が消えていくと共に中から闇堂が出てくる。
がその姿は大きく変わっており、髪や背丈が伸びタトゥーは全身に広がっていた。
また額には鬼の証であるツノが生えていた。
「見た目が変わったからなんだってんだよ!」
山賊達は自身の恐れを払うかのように叫びながら一斉に飛びかかるが、その全てが一薙ぎで吹き飛んでいく。
「これで終わりだ。」
闇堂はそう言うと二本の刀を地面に突き刺す。
『地獄道』
闇堂が詠唱をすると二本の刀から伸びた影が山賊達を呑み込んでいく。
影は全ての山賊を呑み込むとまた縮んでゆく。
「後は任せましたよ。」
闇堂はヒュバートの方を見てそう呟くとその場に倒れていく。
ナディアは闇堂の顔が地面に当たる間際に急いで戻ってくると支える。
「お疲れ様です。」
ナディアはそう言うと気絶している闇堂を馬車へと運んでいった。
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