30分小説

更科 周

人工の奇跡 お題「バラ」「呪い」

 つい、何年か前のニュースを見ていた。

「「青い薔薇」が発明されました。現在まで存在しえないと謳われていた青い薔薇の夢は私達人間が叶えたのです。これを機に、青い薔薇の花言葉「不可能」が「奇跡」に変わることになりま―――」

 そこでテレビを切る。


 何が奇跡だ。こんなのは奇跡でも何でもない。人間の努力進歩じゃないか。

 壁に掛けられた青薔薇の絵がこちらを見ている。7年も前には最も好きな絵の一つであった。現在では何故か色あせて見える。人間はなんでもかんでも可能にして見せた。それはずっとずっと昔から、今も変わらない。変わり続けていく。色褪せ続けていく。「不可能」が「奇跡」になり、「奇跡」は「当たり前」に変わっていく。それが果たしていいことなのか、悪いことなのかわからない。喜びを知る度に、人は褪せる切なさを知るものだと思った。

 

 まるで、呪いのようだと呟く。ベッドの上でひとつ溜息をついて、立ち上がった。「奇跡」だとかいう呪いなどを忘れてしまえるような、そんな瞬間を求めて夕陽が転がる川沿いを歩くのが好きだ。

 外へ出て、”絶世”と謳われた歌手の歌を口ずさむ。そういえば聞かなくなったなと思い当たって、しばらくその歌手のメドレーを歌いながら歩いた。

 

 まただ、と予感する。ズガン、と骨が砕け、皮が裂け、頭蓋が割れたような音を聞く。そうして次の瞬間に僕はまた青い薔薇の絵を見つめている。

 そういえば、「命はうつくしい」とそういわれたことがあった。それもきっといつかは失われるという「可能性」を持っているからなのだろう。

 

 こんな奇跡は呪いでしかない。


 僕はまた、あの歌手の歌なんかを思い出しながら、靴を履いた。

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