第43話 対面-5
沈黙が訪れた。
雅美は目を閉じた。
そして次第にすすり泣き始めた。
母ちゃんも父ちゃんの死を知った時、同じように目を閉じすすり泣いていた。
俺はしばらく黙って見ていた。
すると、大きく息をついて雅美が話し始めた。
「色々な話を聞き過ぎてしまったようです。あなたが復讐のために私に近づいたこと。私の出生のこと。あなたが僕の兄だということ。・・・」
そう言ったところで、雅美は、自分も復讐の対象になっているのではという顔をしたが、それも一瞬のことで、すぐ大人しく淡々とした顔に戻って俺を見た。
「さっきも言ったが、俺は静馬を恨んで生きてきた。だから、お前にはあいつの血が半分流れている。ただな、安心しろ、お前は殺さない、弟だからなあ。母ちゃんの血だって半分入っているし、静馬の子だということは重蔵、俺にとっては父ちゃんの血も入っている・・・お前は母ちゃんによく似てるよ」
「どうするつもりですか」
と、雅美は冷静になろうとさっきから大きく深呼吸を繰り返していた。
「フフフ、よく聞いてくれたな。お前は朝比奈家の跡取りだ。父親がいなくなった以上、お前が当主として生きていかなければならなくなったわけだ。だから堂々と当主として生きていけ。ただし、それは表面上の話だ。この俺を忘れないでくれよ。これからは兄弟仲良くやっていこうじゃないか」
***
一歩一歩、慎重に。
仁科刑事がもう一人の刑事を境内の裏口に残し竪穴住居に近づいていく。
砂利道を避け植え込みとの境目を選んで歩を進めた。
住居のちょうど裏手に回ることができた。
まだ二人の声は聞こえないが、一方で争う物音も聞こえない。
もう少しでフェンスの扉が見えるはずだ。
おっ、開いたままだ。
その距離およそ十メートル。
そこまでの道程を見ると砂利は敷かれていないが所々掃き寄せられた落ち葉の山が点在していた。
落ち葉の山を掻い潜って音を立てずに行けそうだ。
インカムから加納刑事が、
「人命最優先だぞ」
と言った。
落ち葉の山の手前まで行った。
と、蜘蛛の巣が顔にへばりついて
「うっ」と、呻いてしまった。
やばい!
全身が硬直した。
すると、竪穴住居から、
「自首してください」
と言う声が聞こえてきた。
朝日奈雅美の声に聞こえた。
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