第7話 朝比奈紀行-2
日記には、このあと、美子が身籠ったまま、身一つで翌日実家の北海道へ帰っていくさまが事細かに書かれていました。
さて、重蔵はというと、このあと、正式に朝比奈の養子になり、これで姓を山嵜から朝比奈と変えることになりました。
そして、紀行社長と毎晩“残業”をしたようです。
もう紀行氏の言われるがままだったようです。
***
○月○日
残業が嫌だったのは最初の数ヶ月だけだった。
一年経ち二年経っていくと次第に不思議なくらい今の自分が幸せだと、感じるようになっていた。
社長は決して邪な気持ちで自分を扱っているのではないこと、同性愛とはいえ世間に認められない関係であるとはいえ、愛されていることに充足感を感じるようにまでなってきた。
だから喜ぶ社長を見ると自分も喜ばしく思った。
唇を吸われるとお酒を飲んだ時みたいに血が上り自分も唇を求めた。
***
紀行氏は重蔵に対する過剰なまでの援助を行う一方で思う存分自分の欲求を満たしたのです。
しかし、この先、重蔵にまた試練がやってくると誰が想像したでしょう。
***
○月○日
お義父さんはいつになく酔っていて興奮していた。
だからもっと喜ばせたいと思って、今晩は自分が上になってみた。
一生懸命腰を振った。自分の汗がお義父さんのお腹にポタポタ落ちた。
体全体に電気が走り、もっともっと振った。ふと見ると、お義父さんの眼が次第に上目遣いになってきた。
これ以上できないくらい振ると、「ヒィ~」と言った。
そしてビクビクッと全身を痙攣させてきた。
一緒に果てたいので自分も固く握って一生懸命した。
寸前まできたので顔を見ると、口から泡が出ていた。
全身がブルブル震えていた。
そこで「お義父さん?」と聞いてみた。
目は相変わらずひん向いたままで、指まで痙攣し始めた。
そのうち全身の力が抜けたようになって首がだらんと横を向き、口から泡とよだれがこぼれ出た。
鼻水もダラダラ出た。
眼はひん向いたまま、それっきり動かなくなった。
自分はどうして良いかわからずお義父さんの顔を引っ叩き、起こそうとしたが動かなかった。
自分は途方にくれ、お義父さん、お義父さんと叫び、そして気を失った。
何分経ったのだろう、いや何時間経ったのだろう、臭い匂いで目が覚めた。
人は体中の筋肉が弛緩すると不随意筋まで緩むという。
そこは排泄物にまみれた地獄絵だった。
「ああ、お義父さん、お義父さん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます