第37話 今回の事案

アメリアが、今回の巨大ケルベロスが出現した事案について、蕩々と語り出す。



まず、フェルナンドを石化させた、赤い水のこと。


昔の文献を調べたら、それと似たような道具が確認された。

飲むと石化する、赤い液状の薬。

その名も、「魔犬の血潮」。



「魔犬の血潮」は、名の通り、ケルベロスの血を使って作る。

3つの材料を混ぜるだけで出来上がりの、超簡単な調合だ。


材料は、こう。


たっぷりの綺麗な水。

新鮮なケルベロスの血。

そして──────薬草「ブルーハーブ」。



今回の事案で、何が残念かって…

ケルベロスの住み着いた場所が、薬草の群生地である、青い泉の森だったことだ。


どんな薬草でも生えてくるあの森なら、当然ブルーハーブも分布している。

それさえなければ、石化の効果を持つ水は作られなかったのに。



そしてもうひとつ、ヤバかった点。

ケルベロス自身が、なんとその石化効果を利用していた可能性があることだ。



遠くの様子を見る、遠視の魔法。

それを使ってケルベロスが死んだ現場を少し調べてみた。


すると────

石化で死ぬ前に、既にケルベロスの体毛は石化状態であることが分かった。

ただし、毛先部分のみが石化し、毛根部分は石化していなかったようだ。


推測ではあるが、この個体は、意図して体毛のみに赤い水をつけ、石化させていた可能性が高い。

そうすることで、体を石の体毛で覆い、防御力を高めていたのだ。


もしかすると、あの赤い水さえ意図的に作ったのかもしれない。



「ケルベロスって、生きている間はどんどん成長する種族なんだ。カメみたいなもんでね」


アメリアが笑う。


「ただ、普通にしてたら寿命は10年くらいだから…大概は犬らしいサイズの時に寿命が尽きるんだ。

だから皆、あれが大きくなることを知らないんだよね。

魔物なんて、魔力をガンガン突っ込んで育てれば、命の長さをいくらでも操作できるのに」


サラッと怖いことを言った…。


「あんなに巨大になるまで成長する個体は、500年とか…そのくらい生きてると思うよ。

そりゃ賢くもなる」


自分は500年物のケルベロスを殺してしまったのか…。

フェルナンドは、ほんのちょっとだけ、罪悪感にかられた。


「ふうむ」

バティスタが、考え込む。

「魔物は凄いんだな…。

おれ達なんて、そういう型にはずれた魔物が出てきたら、右往左往してやられるだけだ」


「フフッ、兄さんたら。

それがね、凄いのは魔物だけじゃないんだな~」


アメリアが、ウインクする。


「大事なのは、ここから。

フェリィが持って帰ってきてくれた、まだらの花についてだ」


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