第15話 石化

ケルベロスに蹴り飛ばされたフェルナンド。

赤い泉に落ち、ゆっくり沈んでいく。


「嘘!ああっ…フェルナンド!!」

クラリッサが泉に駆け寄る。


「引き揚げろクラリッサ!!

お前の魔法が届かなくなる前に!!」


モナモナの言葉で我に返り、クラリッサは大きな杖を振りかざす。


ジェスターがすかさずケルベロスに向かっていった。

倒せはしない、しかし時間稼ぎはできる。


「ジェスター!」

モナモナが声を上げる。

「目とか耳とか、感覚器官は壊すな!

動きの予想がつかなくなる!」


「了解だ!」


ジェスターは両手に短刀を構え、石の体毛を揺する魔犬の巨体に切りかかる。


うなじを刺され、鼻にカギ爪がかかり、首にワイヤーが巻きついたままの、中央の頭。

ほかの2つの頭もまた、ジェスターへの怒りを忘れてはいなかった。

ケルベロスの狙いが、ジェスターに釘付けになる。



「あ…あ……」


クラリッサの鈴の声が、張り裂けんばかりに慟哭した。


「そんな…フェルナンド!

いやああああっ!!」


クラリッサの魔法で引き揚げられたフェルナンド。


その体の質感は─────

完全に、石そのもの。


「石化…」

モナモナが、言葉を漏らす。

「この赤い泉の水…浸かると石化すんのか…!」



石化。

その言葉の通り、石に変わること。


もっと端的にいえば、つまり「死」だ。

石になった血や肉で生きていられる人間などいない。

魔物なら、いざ知らず…。



黒い石になり、命の火が消えたフェルナンド。

クラリッサが、そっと地面に下ろした。


フェルナンドは、ケルベロスの左足が刺さりっぱなしの剣を、かばうように抱いている。


「剣を守って…?

そんな…命の方が、大事だよ…」

クラリッサが、その場にくずおれた。



戦意を失うクラリッサ。

だが、モナモナは違った。



モナモナは、石化したフェルナンドを、注意深く観察する。


まず、ちぎれたケルベロスの左足。

肉が綺麗に石になっている。

これはつまり…「ケルベロスも石化する」。


次にモナモナは、石化したフェルナンドに矢を放ってみる。

あっけなく、弾かれた。

ケルベロスの体毛に弾かれた時と同じ感じだ。

石化したフェルナンドは、「ものすごく頑丈」とみて間違いない。



「これ…使えるぞ…」


モナモナは、片手でクラリッサをなでて慰めながら、考えを巡らせた。

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