第13話 敗れた連携

ケルベロスが、吠え、巨体を揺する。

石のような毛が、共鳴する。


3つの頭は、自分のうなじを短剣で何度も切りつけた細身の男────ジェスターを探しているようだった。


そうはさせない。

フェルナンドは、巨大な魔犬に、まっすぐに駆けていく。


「ケルベロス────!!

私はここだーっ!!」


フェルナンドの剣が木漏れ日を照り返す。


ケルベロスが、瞬間、フェルナンドの方を気にした。

背面に、スキが出来る。


ジェスターが、大樹を蹴って跳躍した。


ジェスターの両手には、カギ爪のワイヤー。

カギ爪をケルベロスの鼻先に引っ掛け、首にワイヤーを巻きつける。


頭を振ってカギ爪を落とそうと試みるケルベロス。

しかし、動けば動くほどに、鉄の爪が鼻に食い込んでいく。


フェルナンドは、ケルベロスの胸元に滑り込む。

石の体毛に覆われた後ろ脚を捕らえる。


「ジェスター!モナモナ!クラリッサ!

行くぞ!」

「ああ!」

「いつでもいいぞ!なークラリッサ!」

「うん…任せて!」


ケルベロスの左後脚。

フェルナンドは、そこに剣を突き立て─────

しかし、刺さらない!


ここで失敗したら、全部がダメになる…!


フェルナンドは全体重を剣にのせる。

意地だけで、ケルベロスの足の甲に長剣をずぶりと突き通した。


魔犬が痛みに鳴く。


すかさずジェスターが、鼻先に繋がるワイヤーを引いた。

ケルベロスの背面側に向かって、勢い良く。


後ろ脚を剣で固定され、頭を後ろに引かれたケルベロス。

ついに、前脚を上げてのけぞる格好になる。

心臓をしまう胸板が、露わになる─────。


「今だクラリッサ!行け!」

モナモナがクラリッサを抱え、ケルベロスが正面に見えて間合いの十分な、ベストポジションに走っていく。


「─────の精霊の加護!

光る蒼の力を!」


クラリッサが、詠唱を終える。

鈴のような声が、高らかに謳った。


「貫け!

氷の処刑台・フロスタワーメイデン!!」


天を穿つような氷柱。

ケルベロスを、胸の下から、思い切り突き上げた。

剣で固定された左足がちぎれ、巨体が宙を舞う。



そう─────宙を舞ったのだ。



「嘘…刺さらなかった…?!

ああ、そんな…!!」

「お前は悪くない!

あいつがバケモンなんだよ…!」

ふらつくクラリッサを、モナモナが支えた。


空中で身を翻し、着地体勢をとるケルベロス。

あの分では、まだ元気だ。


これは、まずい…!!

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