第8話 まだらの花

「ねぇ見てよこれ!おかしい!」


一行は、モナモナが示す茂みの奥を覗き込む。


一面、見慣れない花が咲き乱れている。

花びらは赤いまだらで、釣り鐘型だ。

蹂躙されている枯れ草は…薬草だろうか。


「何か…変な花だなぁ…」

フェルナンドは首をかしげた。


「うん…おかしいよね…

この花、変な魔力を感じるし」

クラリッサが、腕を組む。

「この辺、元々薬草しかなかったんだよ…?

なのに今…薬草が枯れて、この花がたくさん…

怖いよ、これ…」


「変な魔力か…」

珍しく、ジェスターが口を開く。

「いずれにせよ、良くない兆候というのは確かなようだな」


フェルナンドは茂みに手を伸ばし、まだらの花をいくつか摘んだ。


「えっ嘘でしょ…どう考えてもヤバいのに摘む奴いる?」

モナモナが眉根を寄せた。


「多分平気だよ。手袋しているし…」

彼は、荷物の中から魔導書を1冊取り出す。

押し花の要領で、そこに花を挟んだ。

「こういう分からないことは、一応ギルドに報告しないと…。

現物を持って帰るのがいいかなって」


「だとしてもさー…その挟んでる魔導書、新品だよ?

ボクあんまそこに挟んでほしくなかったなー…」

「あっ…新品…

…そ、そうだね…」


魔導書。

開いて念じるだけで簡単な魔法が使える道具だ。


物理攻撃を伴わない純粋な魔法攻撃の手段は、皆が持っていた方が良い。

それをスライムの一件で痛感させられた。

で、いまいち魔法が得意でないフェルナンドは、魔導書を買ってみたわけだが────


…下ろしたて、新品の魔導書をためらいなく押し花に使ったなんて…

確かにこれは…魔導書店の店主には口が裂けても言えない。

完全に────事案だ。



フェルナンドは魔導書をかばんにしまおうとする。

だが、いつも適当に荷物を詰め込んでいるせいで、さっき入っていたはずの魔導書が入らない。


「ちょっ…ご、ごめん。荷物整理していい?」

「ウソだろフェリィ…早くしろよ」


モナモナに罵られながら、背負ったかばんを下ろし、魔導書を入れるスペースを作り始めて…


…かがんで落とした視線の端に、何かが映る。

フェルナンドは、それを見返した。


かばんを置いたすぐ側に、

…獣の足跡…。


足跡はまだ新しい。

しかもかなり大型なのが怖い。

これは…思ったよりまずそうだ。


「皆…気をつけて。

近くにいそうだ。大きい個体だぞ…!」


フェルナンドは多少無理やり魔導書をしまい、かばんを背負い直す。


次の瞬間──────

4人の耳を、強烈な咆哮がつんざいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る