テンプレ66 「集合」

 明日に、勝負が行われる予定になっていたと聞いたイスズは、ここまでもリミットの予想内なのかと、不機嫌になる。

 吐き捨てるように舌打ちをして、イスズは退室した。


 リミットの部屋を出たイスズたちをルーは玄関まで送る。


「それじゃ、ボクちゃんが賭けの代償で協力するのはここまでだね。いや~、なかなかにイスズくんたちとの旅は楽しかったから名残惜しいよッ!」


「ふんっ、1ミリたりとも思ってないだろ」


「1ミリ?」


 ルーは知らない単語に首を傾げながら聞き返す。


「ああ、そうか。知らねぇよな。俺たちの世界の単位だよ。少ないことの例えだ。気にするな」


 その説明で何を言われたのか理解したのか、わざとらしく両手を振って否定してくるが、その仕草は実にウソっぽかった。


「そんなことないよ。結構思ってるよ?」


嘘臭くさすぎてツッコミを入れる気にもならんな」


「ヒドイ言い草だね~。ま、本来は敵同士だもんね仕方ないかな。それじゃ、ボクちゃんはこれからリミットくんとイチャイチャでもしてるから、またね~」


 ルーは両手を掲げて大きく手を振る。周囲にいるであろうヤマトやクロネにも見えるように。


「ふんっ! 絶対になるからな」


 イスズは片手をあげ、簡単に別れを済ませた。



「イスズ、リミットとの話はどうなったのよ?」


 イスズは先ほどまでの経緯を説明すると、不機嫌さを隠そうともしない大股で歩き始め、宿屋へと向かった。


 宿屋へと到着したイスズは割り当てられた自室の扉を開けると、部屋は豪勢とは言えないが、それでもフカフカのベッドに、隣には引き出し付きのナイトテーブル。夜間の灯りの為に蝋燭ろうそく台も置かれている。


 バタンッ!!


 久々のちゃんとした寝床にイスズはベッドへと倒れこむと、まるで今までの疲れを一気に取るように深い眠りについた。



 そして、勇者との対決日、当日をイスズたちは迎えた。


 対決の時間までまだ少しあるが、宿屋の食堂に座るイスズはすでに身支度は完璧にできており、食後のコーヒーを楽しんでいた。

 さらに、クロネ、フェデックも食事こそまだだったが、時間より前に行動していた。


 その背後から、髪すらとかしていないボサボサ頭のヤマトが、あろうことか下着姿で眠そうな目をこすりながら食堂へと姿を現す。

 

「…………ッ!」


 イスズと目があったヤマトは数秒固まると、目が完全に覚めたのか、瞳を黄金に輝かせ光速の勢いで部屋へと戻った。

 ヤマトの背後からは、「しっかり定刻に起きるなんて基本なんだよ! トラック乗りじゃなくても社会人なら遅刻なんかするかっ!」という怒号が響いた。




 数分後、息を荒げながらも準備を整えたヤマトが宿屋の外へと出てきた。

 すでに他の面々の準備は終わっており、イスズはポスターに書かれた会場への道のりを確認しているところだった。


 ヤマトはそ~っと輪の中に加わり、さもずっと居ましたという体で話に混ざる。


「そうよね。会場はあの円形闘技場がおあつらえ向きよね。アタシでもそうしたわ! ねっ、イスズもそう思うでしょ?」


「遅いッ!」


「ひぃ! ごめんなさいッ!!」


 イスズの怒鳴り声に兜の下から悲鳴が漏れる。


「だが、今回は集合時間をしっかり確認しなかった俺にも落ち度がある。だから、これくらいにしてさっさと行くぞ」


 そう言って気まずそうに背を向け歩き出そうとするイスズを見て、ヤマトはニタリと笑みを溢した。


「ちょっと、そうよ! アタシだってちゃんと集合時間決められたら、間に合わせるように動いていたんだから。むしろそこを怠ったイスズが悪いんだし、そっちこそ謝るべきじゃない?」


 胸をはって堂々と語るヤマト。その兜の下ではドヤ顔をしていることが、態度から容易に想像でした。


「ほう!」


 イスズはガシッとヤマトの頭部を掴むと、見下すような視線を投げかける。


「確かに俺も悪かった。すまんな。だがな、会場時間などの予定はポスターにきちんと記載されてるんだよ! 逆算すればどういう日程になるかわかるよな。クロネはそれを見てちゃんと行動していたぞ」


 その迫力に兜ごと頭を潰されるのではないかという恐怖がヤマトを支配する。


「俺は別に指示待ち人間は必ずしも悪いとは思っていないが、容易にわかることに備えるくらいは進んですべきだよなぁ! 何かおかしいこと言ってるか? あぁ!!」


「そ、そんなことないです。ちょっと言い返せるかと思って調子乗りましたッ!! だから、ちょっ! メキメキさせるの止めてッ!! なんで兜を握りつぶせそうなのよッ!! ホントごめんなさい~~~!!」


 全力で謝罪を口にすると、ふっと力が緩む。

 使用者の形へと自動でサイズを変える鎧の魔法により、軽く押しつぶされた程度ならすぐに修復される。イスズの指の跡も例外ではなく、すぐに元に戻ったが、ヤマトの心には深く傷を残した。


 心底から助かったと大きく息を吐くヤマトを尻目に、クロネは、なぜ学習しないのかと肩をすくめた。

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