テンプレ23 「必殺技の命名」
「プラントコントロールッ!!」
フォーランはイスズがただ突っ込んでくるのを見てから、叫びながら地面へと魔力を伝える。
すると地面から大きな樹の根がムチのように飛び出しイスズへ襲い掛かる。
イスズは大した障害ではないと言う様に拳で叩き折ると一直線にフォーランへと向かう。
「おいおい。そんなん人間がやっていいことじゃないでしょ!」
後ろに大きく飛びのきながら文句を垂れると、イスズもフォーランに対し、
「木人の体をすんなり受け入れているのも人間がやっていいことじゃねぇだろ!!」
「好きでこの体なわけじゃないけど……。こういうこともできるから便利っちゃ便利かな。フォールプラントッ!!」
フォーランがそう答えると、突如イスズとフォーランの間に割って入ってくるように樹木が大量に落ち、積み上がり壁となる。
「この壁を壊せないようなら、魔王城行きは諦めてもらうことになるよ」
流石のイスズもこの壁には立ち止まり、迂回しようと動くと、同様に大樹が落ちてくる。
「なるほど。迂回路もなく、倒木に道を阻まれ進めないってことか」
くつくつと笑い、何度か拳を素振りする。
「まさか、異世界に来て夢が叶うとはな」
イスズは大きく振りかぶり、打ち上げるように倒木の壁を撃ち抜いた。
派手な爆音と共に、木々はまるで小枝のように中に舞い踊り、いくつかの木はただの
「くぅ~~、スカッとした!! 元の世界だと幾度となく倒木にじゃまされて仕事に支障をきたしたからな。俺1人で退かせたらと何度思ったことか! 仕事終わりのビール並の快感だ」
イスズが何度かガッツポーズをしているのを気にも留めず、フォーランは呆気にとられていた。
「それじゃあ――」
イスズがこちらに向かってこようとする音でようやく気を取り直し、魔力を最大に放出する。
「最大奥義。マグニファイング・グラスッ!!」
地中から中央に向こう側まで見える
大樹からは樹液が染み出し、洞をも満たしていく。
「お前はさっきから、何するかバレバレなんだよ!」
イスズは洞に満たされた樹液を一撃で霧散させると、大樹自体には目もくれず、フォーランへと飛び掛る。
「いちいち技名を叫ぶんじゃねぇ!! 丸わかりだ。バカがッ!!」
言葉と共に鉄拳での制裁が加えられた。
「ぐぅおっ!」
神をも黙らせるその一撃に耐えられるはずもなく、フォーランは意識を手放した。
※
「う、うう……」
フォーランが目を覚ますと、目の前では野営の準備が進められていた。
「なんでよ~。せっかくアタシが助手席に座れると思ってたのに~」
ヤマトは泣き言を言いながらトラックの荷台に寝具を設置していく。
「うるさいっ! 口じゃなく手を動かせ! そもそも、あの木のやつが襲ってきたのが悪いんだ。文句なら後であいつに言え!」
「ちゃんと手も動かしてます~」
ヤマトは兜で顔が見えないのをいいことに、その下ではアカンベーをしていた。
「ところで、イスズは何であのエントがしようとしてた技がわかったの?」
「ん? ああ、それか、技名がもろにやることだったからな。始めはプラントコントロール。植物操作だな。次がフォールプラント、落下植物って意味だしな」
「最後のマグニファイング・グラスってのは?」
「ああ、虫メガネって意味だ」
「虫メガネ?」
「拡大鏡って言えばわかるか? まぁとにかく光を集めるレンズのことだ。大方レーザービームみたなものを撃とうとしたんだろ」
「なるほど、光魔法のホーリーレイみたいな攻撃ってことね」
「それは知らん! とにかく相手に何をするかわかる技名を叫ぶのは愚の骨頂だな」
「うぐっ」
ヤマトは自分の技名に心当たりがあるようで、後日技名を一新した。
そんなやり取りを聞きながらフォーランは自身の状態を観察する。特に拘束などもされておらず、動けない程のケガもなかった。
自由に周囲を見回すと、キャンプファイヤーでもやるのか木が組み立てられている。
あれは自分が戦闘で出した木の成れの果てなのかと見ていると、フォーランが起きたことに気づいたイスズが近づいて来た。
「目が覚めたか?」
「なぜ?」
「ん? なぜ殺さないかということか?」
イスズの質問にフォーランは深く頷いた。
これから魔王を倒そうとしている一行が魔王四天王のフォーランをそのままにしておく理由はないはずだ。
それなのになぜ自分は生きているのか、あまつさえ拘束すらされていないのか不思議だった。
「バカヤロー! 命は大事にしやがれッ!!」
ボコッ! と思いっきり殴られ、フォーランは右の頬を押さえた。
「俺の目的は転生者が地味な生活をして、現代人の憧れを失くすことだ。命を奪うことが目的じゃない! ということで――」
と言ってイスズは座ってフォーランに目線を合わせると、指を2本突き出した。
「お前には2つの道がある。1つはこのまま村に戻ってから村長を辞め、ほのぼのと起伏のない人生を送ること。あのエルフの女と所帯を持つのもいいと思う。ベストは村を離れてひっそり暮らすことだな。そしてもう1つは、あくまで俺らに逆らってキャンプファイヤーの焚き木になることだな」
「ほぼ1択じゃねぇか!! しかも命を大事にしろとか言ったヤツの台詞か!?」
イスズは神妙な顔つきで頭を抱えたまま答える。
「俺だって誰かを殺したいわけじゃない。だが、今は仲間もいる。向かって来るなら倒すしかないだろ。それに木人なら血とか出なさそうだし、伐採感覚で行けそうな気がするんだよな」
「待て待て、せめてちゃんと人間扱いしてくれ! 伐採感覚って怖いわ! ったく。わかったよ。わかりました。俺は植物のように静かに暮らすよ」
「それを聞きたかった。ただ、破ったらどうなるか覚えとけよ」
まるでヤクザを思わせるような低い声で最後に脅し、その場を去っていった。
フォーランはふっと笑みを溢すと、魔方陣を出現させ、静かにその場から立ち去った。
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