テンプレ22 「魔王城の守護者」

「良し、準備は整った! フォーラン、俺らを魔王城まで送ってもらおうか」


 フォーランは頷くと木の右手を突き出し、手のひらを大きく開き、呪文を唱え始めた。


「ちょっと待てッ!!」


「へっ? どうした?」


 急に止められたフォーランは不思議そうな表情を見せる。


「俺たちにはまだ欠かせない仲間がいるそいつも一緒だ」


「ああ、そういうことなら構わないけど、いつ来るんだ?」


「そいつはこの村までは入れないから外で頼む」


 フォーランは頷くと、村の外へ向かって歩き始めた。

 

「ヤマト、行くぞ」


「う、うん。でもクロネは?」


 イスズは無言でクロネを抱きかかえると、代わりに食料をヤマトに投げつける。


「こいつは俺が運んでく、お前は食料を持て」


「やっぱり、クロネの方が絶対待遇良いわよね。まぁ、お姫様だっこじゃないから羨ましさはあまりないけどさ」


 クロネは荷物のようにイスズの肩に抱えられ、全員でフォーランの後について行った。


 村の外に出て、フォーランが目にしたものは、トラックのジョニー号だった。


「えっと、もしかしてコレ?」


 思わず指差す手が震え、葉がゆさゆさと音を立てる。


「ああ。ジョニー号は俺の大事な相棒だ。こいつを置いていくことは考えられん!」


「ええっ。こんな大きいのいけるかな……」


 フォーランは苦笑いを浮かべ、額にはうっすらと汗がにじむ。


「出来るか出来ないかじゃない。やるかやらないかだッ!」


「失敗しても恨まないでよ!」


「全力でやった結果ならいい。だが、中途半端にやって失敗した場合は……」


 イスズは両拳の骨をバキバキと鳴らしてみせる。


「い、いつだって全力でやるに決まってるでしょ!」


 フォーランは今度は両手を突き出して呪文を唱え始めた。


 周囲には大きな魔方陣が緑色の光として浮かびあがり、幻想的な空気に包まれる。


「ゲート開門オープン!! 瞬間転移ワープ!!」


 フォーランの叫びと共にジョニー号含め全員がシュッと音を立ててその場から消えた。


 ただ1人残されたフォーランは、


「これで先代魔王への義理立ては果たしたな。さて、ここからは魔王四天王として、今の魔王のために動くか」


 誰に言うでもなく呟くと、回復薬の入った小瓶を頭の葉の間から取り出し、グイッと一息に飲み干した。


 再び手を開き魔方陣を発生させると、フォーランもその場から姿を消した。



 魔王城周辺は現在、草原の真ん中にそびえ立っていた。

 城の周囲、数十キロは草原に囲まれそこから先には禍々しい木々が立ち並ぶ森によって隔絶されており、並の冒険者では辿り着くことすらできないだろう。

 仮に辿り着けたとしても一定期間で場所の変わる魔王城。今のようにあるときならばいいが、何もないという事態も冒険者には待ち受ける。そのときの絶望は筆舌に尽くしがたい。


「やっと着いたか」


 イスズはうっすらと見える魔王城を見ながら呟いた。

 距離にして約10キロ程度だろうか。本来ならば何も障害物がないのでもう少しハッキリ見えても良さそうなものだがかすみがかかったかのように全体がぼんやりとしか見えない。


「ようやくね……」


 ヤマトは決意を胸に呟く。その瞳はまっすぐに魔王城を捉えて放さない。


「ヤマト、荷物を入れておけ」


 ヤマトは食料を荷台に積み込み、続いて魔杖アリエイトとクロネを乗せる。

 動けないのをいいことに2人を荷台へと押し込んだヤマトは初めて助手席の切符を手に入れた。


 ようやくアタシの時代が、アタシが主人公になるときが来た! そう思いつつも、いつもイスズに邪魔されているので最大限の警戒をしていたのだが、いつまで経ってもそんな素振りはなかった。

 不審に思い、イスズの様子を伺い見ると、ヤマトたちが出てきたところから一歩も動かず、まるで何かを待ち受けるかのように仁王立ちしている。


 ヤマトが声をかけようと近づいた瞬間、それは現れた。


 イスズの見つめる先に、緑色の魔方陣が出現し、その光の中から大量の葉をつけた樹木が浮かびあがり、徐々にその全容が見え始める。


 魔方陣が輝きを失い消え始めるころにはすっかりその姿は見ることが適い、木人―エントと呼ばれる種族―であるフォーランがそこには立っていた。


「やあ、みんな無事にワープできたみたいだね」


「ああ、おかげさまでな」


 イスズは体を軽くほぐすと、フォーランに向き直った。


「お前の正体は薄々勘付いている。正直に言ったらどうだ?」


 その言葉に以外そうな表情を浮かべ、「マジか~。失敗したな~」と独り言を呟いたあと、いつから気づいていたのかイスズに聞いた。


「ふん。お前がトーナメントの開催を宣言したあたりだ」


「ありゃ、そんな序盤に」


 フォーランは苦笑いを浮かべ、頬をぽりぽりと引っかく。


「なら――」


 表情から笑みが消え、真顔で口上を述べる。


「俺は魔王四天王の1人。東のフォーラン! ここから先には進ませないよ」


「……えっ!?」


 まるで予期していない答えが返ってきたと言わんばかりの驚きを見せるイスズ。

 バツが悪そうに頭をくしゃくしゃと掻いてから開き直って告げた。


「違うッ!! 四天王とか聞いたんじゃねぇ! 俺が言いたかったのはお前が転生者だってことだ!」


「えっ!? マジで」


 これにはフォーランも驚き、自分で勝手に不意打ちの機会を潰したことに一瞬しょげるが、すぐに正々堂々戦ってこそだ! と自分で自分を奮起させた。


「まぁ名乗ってしまったものは仕方ないね。俺は東を冠する四天王。東は魔王城の守護を任される者のことだ。ついでに転生者でもあるよ」


「やっぱりな。お前、トーナメントで俺の言った不満に現代の知識で応答していたから、そうじゃないかと思っていた。他にも妙に発展した近代的な街並みとかな。転生者じゃなきゃ出来ないことがわんさかだ」


 睨みあう2人に、ヤマトが割って入るように声をかける。


「ちょっと待ちなさいよ。魔王四天王っていうならアタシの敵でしょ。ここはアタシが――」


 アタシが戦うと続けようとした言葉をイスズが手で制し止める。


「お前は魔王と戦うんだろうがッ! こんなところで無駄に体力を使ってんじゃねぇ!!」


「イスズ、そこまでアタシのことを思って……。そこまで言うならここはあんたに任すわ」


 全身鎧プレートアーマーで表情は伺えないが明らかに嬉しそうにしながらヤマトは後方へ下がる。

 イスズからしたら優しくした訳ではなく、単に自分で転生者をブッ飛ばしたいと考えていたからだった。現にヤマトが下がると、「よし! 邪魔者はいなくなったな」と言っていた。


「さて、こっちも自己紹介しておくか。トラック乗りの銀河イスズだ! 転生者は全員ブッ飛ばさせてもらう。事故率低下の為にッ!!」


「へっ!? 事故率? ……トラック。ああッ!! そういうこと」


 イスズが言いたいことを理解したフォーランは本気で自分を倒しにくる相手と認識し、自然体な姿勢をとり、魔力を最大効率で巡らせる。


「いくぞッ!!」


 イスズは拳を構えるとフォーランへ向かって走り出した。

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