テンプレ18 「トーナメント決勝」

 久々の風呂とサウナですっかりくつろいだイスズはわらのベッドの上でグースカと、太陽が高々と上がっているにも関わらず寝入っていた。


 爆睡しているイスズを起こしたのは、元勇者ヤマトのけたたましい声だった。


「ちょっとイスズ、起きてる!? トーナメント終わったらしいわよッ!! ちょっと! ねぇってばッ!」

 

 ドンドンと木製の扉を叩く音は手甲の所為で余計に大きく鳴り響く。


「う、う~ん。誰だよ、こっちは気持ちよく寝てるっていうのに……」


 イスズはシャツにパンツ1枚という姿でもそもそと起き出すと、あくびをしながら扉を開ける。


「あっ! やっと出た――」


 流石に室内でまでは兜をしていなかったヤマトの顔はイスズの下着姿を見るとみるみる赤くなり、「へ、変態ッ!!」といって拳を繰り出した。


 寝ぼけ眼ながらも、ひょいっと避け、反射的に扉を閉め、腕をはさむ。


「ちょっと、待って、腕変な風に曲がりそうだから、折れる潰れるッ!!」


 鎧のおかげで痛みはあまりないが、イスズの腕力の所為で万力と化した扉がヤマトの腕をあり得ない方へと押し曲げようとしてくる。


「ん、あぁ、ヤマトか。どうした?」


 目をこすりながら、少し力を弱める。


「あ~、びっくりした。下着姿のインパクトなんてどっか吹っ飛ぶわね」

 

 ヤマトは腕をさすりながら呟く。


「で、用件は?」


 睡眠を邪魔された苛立ちをもろにぶつけたような声で再度イスズは質問をした。


「そうそう、そうだったわ。イスズ、トーナメントが終わってこの村最強が決まったらしいから行くわよ」


「ああ、その件か」


 イスズは藁のベッドをちらりと見てから、


「俺は別にやることがある。ヤマト、お前なら簡単に勝てるだろ? だからお前戦っとけ」


 邪魔者を追い出すかのように手をひらひらと振り、扉を閉めた。


「もうっ! 絶対やることって2度寝でしょ!!」


 ヤマトは文句を撒き散らしながらイスズの部屋を後にした。



 元勇者ヤマトは部屋へと戻ると、同室のクロネに事のなりゆきを話し、準備に取り掛かった。

 簡単に部屋を片付け、身支度を整えるとヤマトは兜をかぶり、クロネはフードを目深にかけた。


 2人が部屋を出ると太陽は丁度真上に差し掛かっていた。


「こんな時間まで寝てるってどうかしてるわよね」


 太陽を見上げながら呟くと、祭りの喧騒の中、トーナメント会場へと足を運んだ。


 トーナメント会場は年季の入った石のステージが設置されており、これまでも何かの戦いというイベントで使われてきたが故のスムーズな運営だったのだと予想される。


 そのステージの上では1匹のゴブリンが棍棒を高らかに掲げていた。

 緑色の体色、人間の子供程度の体躯。装備もその辺に落ちていそうな棍棒に肩や肘に申し訳程度についた鎧、胴体はまるまる動物の皮鎧で包んでいるだけの質素なものだった。


 その様子を見てヤマトは唖然としていた。

 それもムリのないことで、ゴブリンとは本来単体ではかなり弱い部類の魔物に属するのだ。


(集団での恐ろしさは知っているけど、流石にこれはないでしょ)


 ヤマトは周囲を見回すと、エルフやドワーフ、マーフォーク、オーク、ワイトなどなど多種多様な種族がいるというのに。なぜかよりによってゴブリンが優勝とは。


 しかし、周りから聞こえる声は以外にもこのゴブリンを褒め称えるものだった。


――彼は様々な術を無効化し棍棒1本で勝つとは恐れ入った。

――まさかあの棍棒に、あんな秘密があるとはっ。

――ただ一直線に突っ込むのがこれほど強いとは。バカな戦法もバカにできない。


 といった具合だ。


「クロネ、どっちが出る?」


 ヤマトは一応気を引き締めつつクロネに尋ねる。


「ワタシだとたぶん殺しちゃう……」


「そうよね。まだアタシの方が加減できるものね」


 しぶしぶといった形でヤマトは石のステージへと上がった。



 ヤマトはステージの中央において、ゴブリンと対峙した。

 審判は村長であるエントのフォーランが務める。


「両者構えて」


 フォーランの声で、ゴブリンは棍棒を正面へと構える。

 一方ヤマトはロングソードに手をかけることもせず、自然体だ。


「敗北条件は、戦闘不能または場外。それでは始めッ!!」


 開始と共に、タンッ。と響くと、ヤマトは一瞬でゴブリンの後ろに回り込み皮鎧を掴むとグイッと引っ張り、あっという間にゴブリンは場外へと投げ出された。


 会場が唖然とする中、フォーランによってヤマトの勝ち名乗りが上げられ、ようやく会場に歓声が沸いた。


「え、えっと……、こんな簡単に勝っちゃったけどいいのかな」


 ヤマトの視線をクロネは終始無視し続けた。

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