獅子が子猫に変わる時

文野さと(街みさお)

第1話 獅子も歩けばつがいに出会う 1

 野人とは、この世界「ザリア」における人類の亜種である。

 彼らは人類がザリアに移住する前に存在していた、先住人達の遺伝子を受け継いでいると言う。

 犬歯こそ少し尖っているが、見た目は人間と殆ど変わるところはない。遺伝子の微細な違いがあるだけなのである。

 人間より大柄で、身体能力と知覚に優れてはいるが、決して超人などではなく、傍目からは分かりにくい忍耐力と耐久力に富む種族なのだ。そんな彼らは、概ねうまく人間社会に紛れこんで暮らしていた。

 しかし、その気性は時として非常に荒くなり、彼らが人間と遺伝子を異にする存在だと知らしめるほど、暴力的な存在となり果てる。

 ――その傾向は特に若いおとこに顕著だった。

 彼らが激昂する理由はただ一つ。

 つがいと言う、彼らにとって至高の存在を守り、愛しぬくためなのだ。


 その瞬間、レオの全身に電流が走った。

 ザリアの地方都市である、ジャパネスク・シティの繁華街。

 週末のショッピングモールは若者たちで溢れ、華やいで賑やかだ。その中に、たくさんのカフェやレストランが軒を連ねる、小洒落た通りがあった。

 ――うわ。

 ――見ろよ……あれ。

 ――……すげぇ、どうやったらあんな風になれるんだ?

 男に気づいた途端、ドミノが倒れるように辺りのさざめきは消えてゆき、ごつい長靴ちょうかの行く手は自然に分かれ、視線が彼に釘づけになる。

 見上げるような長身と雄渾な体躯でありながら、流れるような身のこなしは生まれついてのものだ。

 厳しい頬の輪郭を囲うのは、豪華に揺れる豊かな金髪。高い鼻梁を挟む鋭い琥珀の双眸、全身を覆う黒いレザーの下でうねる筋肉は、彼が如何に優れた戦士かを示めしている。危険な、だが抗えない魅力を孕んだ猛々たけだけしくも美しい肢体。

 このような美は人間ではありえない。

 彼は――正真正銘の野人だった。 

 男は通りで目にとまったカフェに入った。

 洒落た料理や飲み物のメニューが豊富な人気店だ。明るく軽薄な雰囲気のフロアは陽気な喧騒に満ちている、そこに――。

 ガチャリガチャリ

 金属音の混じる重い靴音が不釣り合いに響く。

 彼が歩くと媚薬にあてられたように、女達は切なげに身をくねらせ、口を半開きにして熱い視線を絡める。そして、男達は目が合わないように一様に下を向いた。いずれも野人を前にした人間たちの本能のなせる技だ。

 広い店内は混み合っていたが、入口の右手、棕櫚しゅろの木の向こうに席が空いていた。レオは自分の隣を示す女たちを無視し、そこにどっかりと腰を下ろすと、長い脚を組んだ。

 その時、彼は見つけてしまったのだ。

 自分のつがい。

 運命の相手を――。

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