各駅停車と双子の女神

味噌わさび

第1話 正しさの女神と堕落の女神の話 

 その日も俺は、電車に揺られていた。


 放課後、学校からの帰りの電車というのは、非常に憂鬱なものだ。


 俺、手塚昭彦は毎日約1時間半、電車での帰りの時間を過ごしている。時間を持て余しているわけであるから、とにかく、なにかしていないと暇だ。


 しかも、この路線、最悪なことに、俺が帰る時間に限って、急行がまったくない。よって、強制的に各駅停車に約1時間半揺られて帰ることになる。


 もっとも、他の学生もそうなんだろうが、俺の場合は終点まで各駅停車に揺られて帰らなければならないのだ。


 俺は帰宅部なので、放課後はすぐに学校を出て帰っている。そして、約1時間半、各駅停車に揺られて帰っていく。


 電車でやることといえば、本を読んだり、携帯をいじったり……そんな程度のことばかりだ。


 まぁ、最近は本を読むことが多いかも知れない。駅前の古本屋で安い本を買っては、それを読んで電車に揺られていく。


 友達もいない俺の日常は家と電車と高校……その3つの場所で構成されているというわけだ。


 その日も、俺は電車に揺られて本を読んでいた。図書館で本を読んでいたので少し遅くなっている。


 ただ、終点にまで近づいていってしまうと、さすがに他の乗客はいなくなってくる。


 俺以外に電車に乗っているのはおじいさんとおばあさんの夫婦、子連れのお母さん……そして、俺とは違う学校の制服を着た女の子だった。


 俺より後の駅で乗ってきた女の子だったが俺と同様にすでに1時間近く電車に乗っているが、その間ずっと眠りっぱなしだ。


 短く切りそろえた髪……女の子というより男の子のような爽やかさを感じさせるような……そんな女の子だった。


 学年章を見ると、俺と同じ学年のようである。眠ってしまっているとはいえ、いつまでもジロジロ見ていては変質者と思われる……俺は目を本に戻した。


 その時読んでいたのは小説なのだが……タイトルも見ずに買ったそれはなんだか変な内容だった。


 内容は主人公と双子の女神の恋愛話のようだった。


 双子の女神は片方は正しさを司る神、片方は堕落を司る神で、主人公は二人の女神、どちらかと結婚しなければならないという話だ。


 俺が今まで読んだ時点では、主人公は堕落を司る女神を避け、正しさを司る女神を選択しようとしている。


 それは、正しさを司る女神のほうが、選択としても正しいと思うのだが……なんだか、ひどくありきたりというか、堕落を司る女神の何が悪いかがよくわからないのだ。


 読んでいる中では正しさを司る女神はあまりにも完璧すぎて、俺だったら一緒にいると少し気後れしてしまいそうな印象だった。


 残り数頁まで読んでいたが、なんだかとりとめのない話だと俺は思っていたが、仕方なく俺は横目でチラリと今一度女の子を見てから、本を読み進めるのであった。


 そして、そこから数ページ読んだところで、というところで終電に電車がたどり着いた。


 俺は立ち上がる……しかし、女の子は眠ったままだった。俺が電車から出てホームに降りると同時に、電車の中の女の子も立ち上がったようだった。


 いつまでも見ているのは変だ……そう思って俺はそのまま振り返らずに改札口へと向かう。


 一瞬だけ見たその女の子の顔は可愛らしかったな……でも、なんだろう……どこかで彼女の顔を見たことがあるような気がするのだ。


 それは昨日今日ではなくて、かなり昔の話……しかも、俺が今読んでいる小説なにか関係があるような気がする……なんの根拠もなくそんなことを思いながら、俺は振り返らずに家路を急いだのだった。

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