付喪神の双子姫

佐久間零式改

第1話 簀巻きにするのは人助け



 簀巻きは簡単に見えて、意外と難しいのかもしれない。


 付喪神の誰かが用意したであろう藁の束の上に、白黒のゴシックロリータの服を着た明宝桃子めいほう ももこを寝かせた。


 ゴスロリの服の艶やかさとは似つかわしくない藁の束が貧相に映る。


 藁の束の上で横になっているから、ゴスロリの衣服が安っぽく見えてしまうのかもしれない。


「ぶしつけながら、ご主人様。服を着たまま、簀巻きにするのは作法としては間違っています。吉原遊廓においては、素っ裸にして荒菰あらごもに巻いていたと言われています。簀巻きにするのであれば、まずは裸にするのが作法というものなのではないでしょうか」


 俺の後ろに控えていたクラシカルロングメイド服にその身を包んだ明宝小百合めいほう さゆりがにこやかに言う。


 実の妹の桃子がこれから酷い目に遭うというのに、姉の小百合はどこか楽しげではあった。


「裸が作法ならば仕方がない、脱がすしかないな」


 この服はどう脱がすのだろうか?


 分からないので、試行錯誤しながら脱がすしかないのか。


 俺は思案顔になって、藁の束の上でマグロ状態にある桃子を見下ろす。


「……待って。私は……服を着たまま簀巻きにして投げ込まれるのも厭わない」


 当然、そのような蛮行を拒絶するような表情を見せるも、桃子は逃げだそうとはしなかった。


「私もモモも、ご主人様の許嫁のようなものです。裸を見られる、見せるのは、いずれ挨拶と変わらない行為になるかもしれません」


「お姉様。まだ恋愛感情さえ生まれているのかどうか定かではない状態なのに、男に裸を見せるのは嫌なのだけど」


「ふふっ、いずれはお尻の穴の皺の数さえ覚えられてしまうかもしれませんし、蚊に刺された程度だと思って服を脱がされるのも良いのかもしれません」


 さらりとそう言ってのける小百合は意外と桃子に対しては冷たいのかもしれない。


「俺は蚊かよ」


 そう呟くと、


「そうですね。刺しますものね」


 小百合が意味深笑みを浮かべる。


 対照的に、桃子は口を閉ざして頬を紅潮させて、俺から目を反らした。


「分かっているのか?」


 この二人は耳年増なのだろうか?


 それとも、なんとなく知識として得ているだけなのだろうか。


「はい。ご主人様の許嫁に選ばれた時点で、祭将さいしょう様の意向で、男女の営みをこの目に焼き付けさせられましたから」


「……私も見せられたわ」


「……何……を? まあ、いいか」


 それを問いただしてしまっては、セクハラに該当するのではなかろうか。


「で、脱がせればいいのか? 下着まで脱がせるのはさすがに犯罪になりそうなので、そこまでで止めておくが」


 その話題から故意に蛇行させるようにして、当初の話題へと持っていく。


「懸命な判断ね。でも、あなたには脱がしてもらうことは嫌ね。自分自身で脱ぐわ」


 桃子は上半身を藁の上から起こして、手慣れた手つきでゴシックロリータの服を脱ぎ始める。


 脱衣している少女の姿をじっと見つめているのは犯罪そのものではなかろうか。


 しかしながら、俺にはその姿を見る必要があるのではと思えてならない。


 ただのエロ親父の単なる下心ではなく、使命だと思うようになっているからだ。


「……で、簀巻きにした後、どこに投げ込めばいいんだ?」


 俺は拷問と言える行為を、桃子と小百合にしていたりする。


 それは、俺がDV男だからではない。


 あくまでもこれは慈善行為のようなものだ。


 そう……あくまでも、人助けのためだ。


 桃子と小百合を俺が傷つけなければ、この二人は死ぬ運命にあるという。


 それがどういう事なのか説明せねばなるまい。


 いや、待って欲しい。


 まずは、二人との出会いから説明した方がいいのではないか?






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