ピリオドの種

tarina

第1話プロローグ

「宏と会う前日がとってもワクワクするの。」


 私はテラス席のテーブルに向かい合って座っている宏に言う。

 フッと笑って珈琲を飲む宏を見て、私は唇を尖らせた。


「だって、旅行もハイキングも遊園地も、行く前は眠れないくらい興奮したでしょ?」


 柔らかい日差しが降り注いで、二人を照らしていた。

 周りにも私たちと同じようにデートを楽しんでいる人たちがいる。

 

 幸せなひと時だった。

 私は周りの人たちから、祝福されているような気持ちになっていた。


 2人で会う前日の夜は、どんな服を着ようか、髪型はどうしようか、メイクもいつもより念入りにして…。

 そんなことを考える。

 宏のアパートに泊まるのは、ちょっとした旅行のような気分だった。

 でも女の子同士で行く旅行とは違う。

 宏が私の事を愛してくれていると思えたから、こんな私でもお姫様になれた気がしたんだ。



 まさか私にもこんな幸せが来るとは想像もできなかった。

 いつも周りの恋人たちを羨んで見ていただけだった。

 友人に彼氏ができて、悩みという名の惚気話を延々と聞かされ続けてうんざりしていた。


 なんで自分には彼氏ができずに惨めな思いをしているのか…。

 納得ができない気持ちをなだめるために、同じように彼氏のいない仲間同士を誘っては女子会という名の傷のなめ合いをする。

 本当は自信のなくて恋に臆病になっている自分を棚に上げ、出会った男がカッコよくないだのとケチをつける。

 そうやって臆病な自分を誤魔化していた。

 せっかくの出会いのチャンスがあっても、無駄にしてることを薄々気づいていながら…。

 

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