第20話
往古は、少年課の向井から紹介された情報屋のところへ向かっていた。
その情報屋は、繁華街に出入りする「人入れ屋」だった。
キャバクラや風俗店に女の子を紹介する仕事だが、その情報屋は半グレの連中との付き合いが深く、彼らが連れてきた女の子たちを主に扱っている。
「職業安定法」でいつでも逮捕できたが、半グレの情報が必要なため、見逃してやる見返りで「チクり屋」にしておいてやるクズだった。
その男のマンションの近くにあるカフェで待ち合わせをしていた。
店に入ると、おしゃれな雰囲気のなかで明らかに浮いている中年男が座っていた。その男の名前は三枝と言った。
「三枝さんですか」
男は面倒臭そうな顔を上げた。
「そうだけど・・・」
「紹介された愛知県警の往古だが」
「そんな大きな声だすな。誰が聞いてるかわからないじゃないか。俺がポリと会ってたなんて噂が出りゃ、俺はこの世界で生きていかなくなる」
「すまんすまん」
往古は黒後翼のことを単刀直入に聞いていった。
「奴は組の幹部に見込まれて、鉄砲玉になったんだよ。最近起きた殺しに絡んでいると半グレの連中は噂している」
「いまどこに居るか知らないか」
「それは分からねえ。組が匿っているんじゃねえのか」
「確かな話なんだろうな」
「俺も聞いた話だから真偽のほどは言えねえけど」
「それだけか」
「あと、半グレのなかには、黒後は利用されて始末されたんじゃないかっていう奴もいるけどね」
往古は急に心がざわついた。
もし消されたとすればゆいがどんなに悲しむだろう。
仮に生きているとしても殺人犯なら死んだも同然だ。
どちらにしてもゆいは大きなショックを受けることになる。
もし、翼が犯人だとしたらもう事件は身代わりの犯人が出頭し、送検が終わっているので起訴され、裁判を待つ状況になっている。
これをひっくり返すことは往古の力では到底出来ない。
だが、ゆいに何らかの報告をしなければ、自分がいかにもいい加減で嘘つきな刑事だと思われる。
それも嫌だった。
しかし、今の段階では生きているとも死んでいるとも言えない。
そんな中途半端なことを話してもゆいを困らせるだけだ。
悶々としながら署に戻った。
「往古さんよー」
往古が席に着き、デスクワークをこなしているところへ背後から上津が声をかけた。
「ちょっと話があるから食堂にでも行くか」
「ここで話せませんか」
「駄目だ」
往古は仕方なく上津の後を付いていった。
21に続く。
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