往古警部補の終焉
egochann
第1話
12月8日午後9時55分
「人は一度は必ず死ぬ。今俺は死のうとしているのだ」
往古警部補は担架に乗せられていた。
腹に銃弾を打ち込まれていて、内臓を深く抉って体内に留まっている。
「新明和病院のICUに搬送」救急隊員の叫ぶような声が聞こえていた。
薄れ行く意識のなかで往古警部補は、自分を撃った男の顔を思い浮かべていた。
「あいつ・・・・」
12月8日午前9時4分
往古は、時間どうりの出社をしていた。自動車警ら隊第二分隊分隊長の往古雅美警部補は、いつも通りの朝を迎えていた。
警ら隊の部屋には、非番のものを除いてほぼ全員が揃っていた。
宮杉警ら隊長は、身長180センチの大男だったが、性格はいたって穏やかで隊員たちから慕われていた。
9時15分、宮杉隊長が立ち上がり朝礼が始まった。
「今週はまだ重大事案の発生は無く、比較的穏やかな日が続いているが、こんなときこそ気を引き締めて日々の任務に当たってもらいたい。いつ、いかなるときにも緊急事案が発生しても隊員が存分に各自の技量を発揮できるように各車は頑張ってもらいたい」と訓示を述べた。
往古と相棒の川戸巡査たちは、10時から管轄北部のパトロールに出発しなければならない。
前日の任務報告を見ながらこれから回る地区の様子を思い浮かべる。
国道は中部地区の中心部から近畿の大都市に向かう中間点にあるため、交通量が多く、そのなかには非合法組織の車両が頻繁に往来することでも、要警戒地区でもある。
往古もこの地区を巡回するときは、他の地区より緊張感が増す。
「最近、マル暴の幹部の殺しがありましたよね」
川戸は思い出すように口を開いた。
「あの組は近畿の本部の支店みたいなものだから関西からのお客さんが多く来ているようだな、とりあえず、マル暴と思ったら止めよう」
往古は押し殺すような声で言った。
「やりましょう。今週はひとりでもうちらで上げたいですね」
「相手も殺気だってるから気を張れよ」
「分かりました」
ふたりは自分たちのパトカーへ向かい、始業点検を始めた。
まず、無線の確認だ。
感度は良好か、スイッチ類に不具合は無いか、タイヤの空気圧は、エンジンをかけてみて、どこかに異音はないかなどを確認した。
「警ら3車、パトに出発します」
無線で警ら隊室に報告し、川戸は車を発進させた。
②へ続く。
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