Night of slaves(5)

 昼間は老若男女が集う公園も今は異様な光景を醸し出していた。


 割れた電灯、壊れた用具、抉れた地面。

 その公園内には2つの影が月光の下に照らし出されていた。


 一方は黒の外套に身を包んだエルフ。もう一方は女子校の制服に身を包んだ楠 メアリ。


 黒の外套は汚れ1つなく、女子校の制服はボロボロに、さらに腹部には螺旋状の矢跡。出血はほぼない。


 周囲には瓦解した鎖が散らばっている。


「......かはっ」

(彼女に勝てる気がしない......)


 吐血し、メアリの戦意は既に失せていた。


「どうやら、ちゃんと生きているようですね」


 近付いてメアリの生存を確認する。


 もし、エルフに殺意があったなら彼女は死んでいたことだろう。のだ。


「......エルフがなぜ人間の為に戦う?」


 声を詰まらせながら、エルフに問う。


 フードを取り去り、現れたのは薄金色の髪に蒼い瞳。そして、エルフを証明する長耳。


「勘違いしないで下さい。私は人間の為に戦ってなどいません。彼だから、彼が助けを求めたから私は力を貸したんです」


 意思のこもった強い眼差しに彼女の言葉が嘘ではないことを悟ると眠たげな目を閉じる。


「まさか、エルフが味方とは。でもこのままでは終われない」


 そう言うと、彼女の下に幾何学模様の魔法陣が浮かび上がる。


「......っ!これは!」


 急いで魔法陣から離れようとするがそれより先に彼女の魔法が発動する。


「【天鎖地縛てんさちばく】この武器の名前」


 魔法陣の円環から無数の鎖が周囲を覆う。


「––––––【地縛錠牢ちばくじょうろう


 捉えた相手の魔法を封じる封印の鎖。......尤も、わたしも動けなくなっちゃうけど」


 胴体や手足を魔力を帯びた鎖が身動きを取れないように拘束する。


「これは......」


 腹を矢で貫いたことで勝負は決したと油断していた。


 それでもこの土壇場で見せた執念。敵ながら尊敬に値する、とエルフは驚愕した。


 今し方使った彼女の術、黒みがかった臙脂色の髪をもつ双子。


「––––––【サーヴァスジェミノス


 裏社会で有名ですね。随分趣味の悪い二つ名ですが」


「呼ばれたくて呼ばれてるわけじゃない。気づいても、もう遅い。わたし達の勝ちだ」


 力なく不敵に笑みを浮かべるメアリにエルフは笑みを返す。


「そうでしょうか?でも貴方は彼の覚悟の重さを知らない」


 瞼の裏には今日話した彼の姿が鮮明に浮かび上がる。

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