Night of slaves(4)
鎖が風に防がれ、地に落ちる。
「はぁ。まあいい。おねぃちゃん、強いし」
ジャラジャラと音を立てながら鎖を引き寄せると不満げに呟く。
「そうですね、早く貴方を倒して、はーくんを助けにいくことにしましょう」
勝って当然とばかりに宣言するエルフにメアリは眉を顰める。僅かな焦りか無表情というわけにはいかない。
「舐めると足元掬われる。それを証明する」
鎖が縦横無尽に宙に舞う。両袖からは100本を超える鋼鉄の鎖。紛う事なく、楠 メアリの本気。
四方を囲まれたエルフはメアリを見据えたままその場を動こうとはしない。
「......なぜ、なにもしない?」
「必要がないからです」
メアリの疑問を切り捨てると不敵に笑う。右手を翳すだけで何かを仕掛ける様子はない。
「残念。貴方はここで死ぬ」
宙を舞った鎖が一瞬動きを止め、次の瞬間、対象を殺すために一点に収束していく。
「––––––風よ」
彼女の声が風に乗って周囲に反響する。
「......っ?!」
鎖はエルフの体を引き裂き見るも無惨な姿に変える。
––––––はずだった。
「この程度で私が死ぬとは笑い話しにもなりませんね」
自身を中心とした風の結界は半円球状に展開され、その外壁をギリギリと音を立てながら鎖が何度も行き交う。
「でも。貴方も、何もできない」
メアリは風の結界が消えた瞬間に相手を殺せるように鎖に力を加えたまま維持する。
魔法を展開し続けるには限界がある。それをメアリは知っていた。普通の人間であればの話しだが。
「......」
「な、なんでまだ魔法が使える?」
メアリの使う鎖は通常のものとは異なる特別製だ。
それを防ぎきる風の結界を維持するのは到底人間技では考えられなかった。
「貴方も防御の準備をしたほうがいいですよ」
鎖と風の結界の向こう側から蒼い瞳がメアリを射抜き、ゆっくりと弓を構える。
それは言わば戦場において働く防衛本能。考えるより先に体がメアリを動かした。
咄嗟に腕を交錯させ全て防御に回したところで凛とした声が響く。
「射貫け––––––【フェイルノート】」
詠唱が終えると同時に緑光の弓矢が顕現する。
––––––キュィィイイイイイイイイイ
空気が振動し劈くような耳鳴り。
「なっ。貴方どれだけ魔力を......」
動揺を隠せない。風の結界を張りながら尚、過剰な威力の魔法を放とうとする異質な存在。
メアリは知識を総動員し、1つの答えを導き出す。
「まさか......エルフ?」
外套の下から覗いた唇の端があがる。
「ちゃんと防いでくださいね。そうじゃないと貴方は死んでしまう」
エルフは弓を放つ。
放たれたことにすら気付かれないほどの音速の一矢。
地面を抉り、空気を裂き、鎖の防御壁に衝突した。
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