Night of slaves(1)
クソオヤジは抱き合う兄妹をニヤニヤした表情で見守った後、1人で家から出て行った。
「悪いが、色々面倒な制約があって、オレは力を貸せない。女を守るって言い切ったんだ。オレはその覚悟を信じるぜ」
そう言うと、背を向けたまま手を振って行ってしまった。
中年の癖にカッコつけすぎだろ。
リビングには僕と魅夜がソファーに腰掛けているが、決して明るい雰囲気ではない。2つ目の選択肢である、あの姉妹を倒さなければならないのだ。
実際に対峙した圧倒的な力を覆さないとならないと考えると頭が痛い。覚悟は出来た。しかし、その覚悟を遂行する為の力が足りない。
「ミヤも、戦い、ます。ただ、守られる、嫌、です」
深紅の瞳にも覚悟が宿っていた。
確かに、魅夜は十字架を象ったナイフを持つアメリと互角に渡り合っていたはずだ。
だが、魅夜を守る戦いで魅夜を戦いに投じるとはどうなのだろうか。
「それでも魅夜と僕だけでは......」
「うーん」と頭をひねっていると、魅夜は僕の置かれた左手に自身の手を重ねる。
「......1つ、方法、ある、です」
そう言うと、俯きがちにきゅっと握った手の力を強めた。
※※※
翌日、時刻は19時ジャスト。
作戦開始の時間。覚悟を決めた僕と魅夜は並んで、昨夜の公園で姉妹を待ち受ける。
奴等は必ずやってくる。あのクソオヤジがいることで警戒を強めていたと言うならば、クソオヤジがいなくなった今、躊躇する理由などない。
人気のない公園にわざわざ来てやっているのだ。狙わない理由などない。目を閉じてそのときを待ち続ける。
「おいおいマジか。テメェら自殺志願者かよ」
ツカツカと地面を踏みながら楠 アメリが影の中から嗜虐的な笑みを浮かべながら姿を現わす。
「おねぃちゃん。罠も考えて。慎重に」
後に続くのは楠 メアリ。とんでもない拷問娘だ。今日は制服ではなくパンツスタイル。無表情のまま、こちらを探るように僕と魅夜を観察する。
「なあ、僕達はほんとに戦わないとダメなのか?和解は出来ないのか?」
縋るように問いかけるとアメリはクツクツと嗜虐的な笑みを深める。
「和解だぁあああ?!ないな!もしかしてテメェらは命乞いにわざわざこんな真似してるってのか?......だとしたら舐めすぎだ。受けた依頼を情で流すほど、うちらは優しくない」
「お前らは金を積まれたらこんな女の子の心臓も奪うってのかよ?!」
「あぁ?当たり前だろ、そんな––––––」
「おねぃちゃん!こいつら、情報引き出そうとしてる」
メアリは言葉を遮り、警戒の色を強める。
「はぁああああ?!え、マジ?」
振り返ってメアリが頷くのを確認すると、怒りで顔を憤怒に染める。
「な、な、な、なんなんだよテメェらぁあああああ?!殺す!絶対殺す!今すぐ殺す!援護しろメアリッ!」
そう言うとブレザーから十字架を象ったナイフを両手に構え、突進してくる。
––––––想定通りだ。
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