さよならタイムリープ
安住ひさ
プロローグ
プロローグ
「真琴、あのね。私の事を守ろうとしたら絶対に許さないから」
彼女は寂しそうに、それでいてとても嬉しそうな表情で俺にそう言った。
止めてくれ。
約束したんだ。
守らないといけないのに。
俺が守らなくちゃいけないのに。
なのに。
どうして君は、そんな言葉を俺に伝えるんだ。
――
「好きだ、瑞葉。付き合ってくれ」
それは景色の良い割に人の少ない公園での告白だった。思い返せばそれはしどろもどろ、ぎこちない告白だったように思われる。だが俺にとっては十分に練習を積んだ上で出てきた結果なのだ。それがたとえ芳しくない結果だとして、ショックで二、三日寝込む事はあっても後悔はない。
目の前に立っている俺の好きな女の子、橘瑞葉は、洒落っ気も飾り立てもない只々プレーンなだけのその告白に、明らかに目を泳がせていた。縁結びの神よ、今すぐ教えてほしい。これはどういった時に見せる反応なのか。角が立たないように上手く断るための動作なのか、回答を保留するための
一秒一秒がやけに長く感じられた。仮に時間が道だとするならば、今この瞬間はさながら前進する事が困難な沼地であった。
だが結局のところ、俺は縁結びの神に答えを願う必要はなかった。
何故なら、彼女が俺の味気ない言葉に答えてくれたからだ。
「真琴。本当に、私でいいと?」
瑞葉は小さな声で、目をキョロキョロさせながらそう言った。
「ああ、当たり前だ。俺はお前が一番好きだ。代わりなんて絶対にいない、俺が絶対に守るから」
今でもハッキリと覚えている。その声は明らかに喜色に満ちたそれだった。
帰り道は手を繋いで帰ったが、しかし、交わす言葉は少なかった。いや、そもそもそんな余分な事を考える程お互い頭が回っていなかったのだと思う。俺は心臓の高鳴りがずっと続いたままだったし、それは瑞葉だって同じであっただろう。
恋なんてものはこれまで数え切れない程の人間がしてきたものだから、俺の今感じている事なんて陳腐なものでしかないんだろう。
だけど俺にとってそれは未体験で、新鮮な感覚だった。何処かで聞いたような台詞だが、世界が輝いているように見えた。本当に、自分達の生きているこの世界が素晴らしく思えたのだ。
〇
果たしてそれは俺の心象の影響もあったのか、空がまるで別世界のように煌めいていたとある夜の事であった。
その日、瑞葉は帰らぬ人となった。
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