第22話 生き神様

 俺たちは、新たな村に辿り着いた。

 なにせシュシュの村との遭遇イベントから血まみれ血まみれ血まみれ……

 村から村の移動だけで何人殺すか予想もできなかった……

 もうやめてくれよ。

 俺は繊細なんだよ!

 ところがだ……


 歓迎 勇者ジャギー様ご一行


 のぼりが立っていた。

 この場合の勇者ってのは『獅子族を抱いて生き残った勇者』って意味だ。

 不死族を殺した方はどうでもいいらしい。

 おかしくね!

 なんでそっち優先なんよ!

 村に入るとおっさんどもが寄ってくる。


「あなたがジャギー様ですか! あ、握手を!」


 握手を求められる。

 おっさんたちの目は、まるで映画スターを見てるかのようだった。


「ありがたやー、ありがたやー」


 手を合わせて拝まれる。

 もうさ、意味がわからん。


「ここに寄った記念をお願いします!」


 なんてサインまで求められる。

 本当にここの連中は俺とカサンドラとの関係の方が重要なようだ。

 宿に行けば、サインやらを次から次へと求められる。

 まるで大スターのような扱いである。

 とは言ってもこちらは褒められなれていない身。

 なんだか悪いことをしているような気分になる。

 だから俺は村で簡易診療所などを開いた。


「はいエリアヒール!」


「うおおおおおおッ! 暗黒神の恩寵を!」


 暗黒神はこの世界では大人気のようだ。

 意味がわからん。

 あれか、大黒様。

 破壊神だけど大人気。

 そんな俺を見てカサンドラは言った。


「へぇー。ダーリンかっこいい!」


 獣人、特に獅子族の『かっこいい』とは、耐久値が高いという意味である。

 目減りしないのがチャームポイント。

 確かに人間でも金を持っているという基準で伴侶を選ぶ人間が多いのだから、耐久値目当ても異常ではないのかもしれない。

 噛みついて引き裂くのは絶対に異常だけどな!

 でもさ……ATM呼ばわりよりは多少マシなような気がしてきた。


 治療の合間にふと見ると、そこらの屋台に『子宝のお守り』とか『子授けの札』とか『勇者ジャギーの精力剤』とか書かれている。

 おまけに本人より数倍美形にした像と絵まで売っている。

 なるほど。こうやって歴史は捏造されていくのか。

 俺の許可取ってねえよな?

 なんなの!

 俺がにらむと屋台の親父がゲスい顔をしながら、俺に近寄ってくる。


「げへへへへ。旦那。一つこれで」


 銀貨を何枚か渡される。

 この金額の10倍は稼いでるな……。

 でもいいや。

 俺はそのうち数枚を「恵まれない人にどうぞ」と返却する。

 儲かる人が増えれば俺の懐に帰ってくる金も大きくなるだろう。

 あれだ。鮭の稚魚の放流。それと同じだ。

 お金ちゃん……大きくなって帰ってくるんだよ。


「見逃しますが公認はしませんよ」


 権利にうるさい日本人をなめるなよ!

 権利は最後まで渡さぬわ!

 公認グッズでゆくゆくはランド作ってやる!


「へ、へい。で、では……」


 こんなのはいつでもあった。

 そのせいか俺たちの軍資金は減らない……どころか、もりもり増えていた。

 なにせ無料でいいと言っているのに、食い物や金、宿まで提供してくれるのだ。

 むしろ重すぎるので、村や街を出る前に孤児院とか、無償治療なんかの慈善活動をやっている施設に寄付してしまう。

 神様……アイテムボックスをつけなかったことについて話し合いましょう。

 とりあえず殴りますんで。


 俺たちが寄付しまくっていると、領主や商人も寄付せねばならない空気ができあがる。

 民衆によるカツアゲである。楽しい。

 なので領主たち権力者は、俺たちを追い出したくなる。

 護衛や馬車まで用意してくれるので……まあいいや。

 次の街では噂を聞きつけた慈善団体が俺の活動場所や宿、それに次の街への足まで用意してくれる。

 俺は謝礼を受け取り、運べない分はその場で寄付してしまう。

 するとそれを聞きつけた……(以下略)

 どんどん施設は豪華になって、売上はうなぎのぼり。

 なにもかも快適。

 ……俺、なんか新しい慈善ビジネス作ったんじゃね?

 しかも俺たちは無駄に有名なため、山賊や盗賊にも襲われないのだ。

 レアで有用な技術を持っていればどこに行っても食える。それは日本と同じらしい。


「甲斐性のある夫を持つと旅が楽だなあ!」


 カサンドラは笑う。


「おっさん……あんた、天才なのか!」


 ティアもカサンドラと一緒で上機嫌だった。

 普通の旅はバンバン金が減って野宿を余儀なくされるらしい。

 俺との旅はかなり快適なようだ。

 二週間ほどダラダラと旅を続けると広大な森が見えてくる。


「ここから先が獣人族の領地だ。魔王軍の縄張りだが人間とも密貿易してるぜ」


「なるほどね。国境地帯なんてそんなもんか」


 そりゃね。

 江戸時代の南の方だって密貿易やりまくりですから。

 商売を止めることなんかできるはずがない。

 お互い話し合いができるのなら、なんかしらの交流ができるはずなのだ。

 俺は近くの街からせしめた通行証を手に魔王領へ向かう。

 領主を脅迫して手に入れたりしてないよ。ホントだよ。

 なんだか……うまく行きすぎているような気がする。

 旅の予定だって半分くらいの日数で到着したほどだ。

 いきなり襲われたりとか、ヒロイン登場かと思ったら人の内臓取り出す系女子だったりとか。

 そういうのがないと逆に不安なんですけど!

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