第二部 「仕事になりますよ?」

「お客さんの少ないときで良かったね。何も、今の時期を狙わなくてもいいのにとは思うけど」

「うちではそう悠長なことも言ってられなくてねえ…。早く捕まえないと、客が寄り付かなくなっちまうよ」

「そうか…大変ですね」

「ああ。…それを飯の種にしてるって言うなら…ちょっと、捕まえてもらえないかい?」


 かかった、と思う。

 少しくらい動きたい気分だが、そのときに何かあった場合、自分から言い出したのと相手から言い出したのとでは、対応に差が出る。

 騒動にしたいわけではないが、大雑把な性格ゆえに、なかなか捕まらないというのぞき魔を相手に、大立ち回りということも考えられる。そのときの責任を全て負うのはごめんだ。

 そういったところ、シュムは狡猾こうかつだ。ただ、セコイだけともいえる。


「いいけど、仕事になりますよ?」

「……いくらだい?」

「うーん。そうだなあ…のぞきの退治なんだし、そう取るのも。…そうだ、ここ泊まってる間のご飯ただってのは? あたしと連れの分。それと、ちょっと何か壊すとかしても見逃して欲しいんだけど。それでもいい?」

「…」


 シュムたちがよく飲み食いすることが既に知られているためか、考え込んでいる。

 温泉で収入があるといっても、他の村よりもいくらか裕福な程度で、やはり税でごっそりと持って行かれるのは変わらない。どのくらい逗留するのかも判らない分、不安にもなるだろう。


「ああ、飲み分は抜いてもらっていいですよ。食べる分だけ。失敗したら報酬は当然なしでいいけど、損害分はそっちでよろしく。というあたりで。どうします?」

「そうだねえ…」

「腕が心配なら、知り合いを紹介しましょうか? ちょっと、時間とお金かかるけど」


 まだ少し迷う素振そぶりを見せる主人に、害意も含みもないように聞こえるように、しかし承諾してもらえるように言う。

 これで紹介してくれと頼まれたなら、面倒だが本当に誰かを呼ぶだけのことだ。

 剣ひとつで世間を渡り歩いたり、何でも屋のようなことをしていたりという知人は多い。街中の酒屋に剣を引っげて入れば、何人かはちょっかいをかけて来る。そこで実践の剣技でも披露すれば、知り合いを作るのは比較的簡単だ。

 主人は、探るようにシュムを見て、小さく息を吐くと、少しだけ笑顔を見せた。


「とりあえず、あんたがやってみてくれないかい?」

「じゃあ、きまり。契約書作るから、ちょっと待ってね」


 商談成立。

 こうして、シュムは嬉々として温泉へ向かうのだった。その際、ふと思いついて、一旦いったん宿を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る