夜を慕う

 明日が来るなんて嫌だな

 今日だけでいいや

 夜が終わらないでほしい

 朝なんて来ないでほしい

 夜よ負けるな

 朝をぶちのめせ

 初めから出来レースだとわかっていても

 有り金はすべてきみにはたいたんだ

 魂の全重量を賭けたんだ

 夜よ踊れ

 夜よ叫べ

 きみの歌には死のような優しさがある

 きみの声には月影のような儚さがある

 あかつきを消してしまえ

 黎明れいめいかどわかしてしまえ

 臥所ふしどの恋人たちに朝日を見せるな

 夢みる子どもたちに目覚めをもたらすな

 きみは未来のすべてよりも豊かな暗闇を持っている

 きみは一夜限りの死者たちをけして忘れない

 きみは魂の惨劇をおそれない

 真夜中は親しい恋の時間

 真夜中は狂おしい遊びの時間

 夜よ共に死のう

 きみと想い人にはなにかしら奥底に通ずるものがある

 記憶を繋留けいりゅうする懐かしさがある

 夜よ

 夜よ

 夜よ

 十六夜いざよいはもう二度とは帰ってこない

 きみの希望はすでにしてついえ去った

 夜よ

 うしなった恋に痛む夜よ

 死にながら永遠に語らおう

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